研究実績の概要 |
未開拓の代数的極小曲面のガウス写像の値分布論の研究に力学系の観点を取り入れることができた.代数的極小曲面の基本群は自由Fuchs群である.基本領域を1つ固定し長さdのワードを働かせることによってS^1上に頂点集合が定まる.dが増大することによって生じるS^1の増える点のなす力学系は一定の法則性を備えている.これを放物型局所化原理と名付けた.代数的極小曲面を円板(普遍被覆)に持ち上げて基本群作用つきで考えると,放物型局所化原理をネヴァンリンナ理論で解釈できて,代数的極小曲面のワイエルシュトラスデータに対する一連のネヴァンリンナ理論的不等式を得る.一方,ガウス写像も円板上の有理型関数に持ち上げてネヴァンリンナ理論を適用する.ガウス写像の全分岐値数を調べることはガウス写像が満たすべき対数微分補題に帰着する.代数的極小曲面の周期条件がここで本質的である.周期条件を暗号化する円板上の関数と潜在的無限次のP^1上の因子の組(exp(H),D)を構成し,exp(H)のDへの接近に対する対数微分補題を定式化,証明することができた.放物型局所化原理によりガウス写像はDに対し最大近似状態(対数微分補題が等号を達成する)にある.このことからexp(H)もDに対し最大近似状態であることがわかる.こうして得られる(e^H,D)に対する対数微分補題は最良のはずである.これと古典的ネヴァンリンナ解析を合わせるとガウス写像の全分岐値数が2.88を超えないことがわかった.現在,宮岡礼子氏と論文を執筆中である. 同じように基本群と値分布論の相互作用の性格を帯びる問題として,SL(2,C)を離散部分群で割って得られるコンパクト平行化可能複素多様体への代数曲線からの正則写像の分類がある.平行してこの問題を考えて,代数曲線からの正則写像の像は本質的に最大トーラスしかないことを示した.
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