巨大なグラフ、成長するグラフ、ランダム・グラフ、辺の向きや頂点加重など付加構造をもつものを複雑ネットワークと総称する。本研究では、量子確率論による独自の視点や解析手法を複雑ネットワークのスペクトル解析に展開するとともに、ダイナミクスのスペクトル的特徴付け、ダイナミクス統計量によるネットワークの粗構造・階層構造の推定、およびスペクトル・モデルの応用を目的とした。本年度は、グラフの積構造に関する研究が進展し、あらたに距離行列とグラフのユークリッド埋め込み問題に成果があった。当初設定した3つの課題設定に沿って成果を記す。 1.複雑ネットワーク上のダイナミクス ネットワークのユークリッド空間への埋め込みに関して、距離行列のスペクトルを扱った。グラフ積などのグラフ演算と埋め込み可能性の関連を明らかにするとともに、埋め込み可能性の指標となる定数を導入して、小さなグラフ(頂点数5以下)に対して、定数の一覧表を作った[Alfi Yusrotis(バンドン工科大学)との共著論文として投稿中]。さらに、星形積に関する定数の評価を求めた[Wojciech Mlotkowski (ヴロツワフ大学)と共著論文を準備中]。 2.ダイナミクス統計量によるネットワーク構造 特に、ランダムウォークに関連して、新しいグラフ積に対してグラフのスペクトルと道の数え上げについて研究を進めた。前年度に引き続いて、制限格子への応用を具体例で検討した。 3.スペクトルモデルの提案 スペクトルに関連するグラフの特性量やダイナミクスの統計量を用いたネットワーク構造推定のための予備的研究を継続している。今年度は、新たに距離行列のスペクトル解析からユークリッド距離幾何学と称される研究分野との関連に大きな可能性を見出した。 本研究を含む一連の研究は国際共同研究として遂行し、その成果の一部は2017年1月に刊行した図書に含まれる。
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