揺動を伴う界面成長を記述する Kardar-Parisi-Zhang (KPZ) 方程式の研究は、2014年の国際数学者会議においてフィールズ賞受賞者を生み出し、その後も世界的な規模で爆発的な勢いで進展している。これは一種の確率偏微分方程式であるが、非線形項と時空ホワイトノイズとよばれる確率項は協調せず、非線形項に対し繰り込みと呼ばれる発散を除去する操作を行うことが不可欠である。本研究は研究代表者と研究分担者の協力の下に実施しているが、以下では各テーマを主導した研究者ごとに研究実績を述べる。 研究代表者の舟木は、昨年度に引き続き、流体力学揺動理論において重要な役割を果たすと予想される多成分がカップルした KPZ 方程式に関する研究を、擬被制御解析を用いて進展させた。特に、非線形項のカップリング定数が3重線形性とよばれる対称性の条件を満たせば、拡散係数による修正を加えた多次元ウィナー測度が定常測度であり、この測度についてほとんどすべての初期値に対し多成分KPZ方程式、正確には、その微分に対する方程式は大域的適切性を持つことを示した。これと最近のHairer-Mattinglyによる強フェラー性の結果とを組み合わせれば、すべての初期値に対する大域的適切性が得られる。これは星野壮登氏との共同研究である。 研究分担者の笹本は、q-TASEPと呼ばれる非対称単純排他過程の一種に対し、その定常状態における粒子の位置の揺らぎが長時間極限においてBaik-Rainsと呼ばれる分布で与えられることを示した。またそのスケール極限として定常的なポリマー模型やKPZ方程式の解析を行った。さらに対称単純排他過程における粒子の位置の大偏差を決定する研究も行った。
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