偏微分方程式論の研究において、相空間上で議論を展開することにより解の性質に関する情報を引き出す方法論(相空間解析)は、解析力学の登場以来古くから用いられている手法のひとつである。この研究は、特に解の定量的な情報(Lp-型評価など)を相空間解析により導き出すための、モジュレーション空間を用いた新しい包括的方法論を構築することを目指すものである。さらに、この方法論を非線形問題などの偏微分方程式の諸問題に応用し、「比較原理」「フロー法」などの評価式導出の際の新しいアイデアも取り込みながら、変数係数の場合など方程式の一般化へのブレークスルーの可能性をも探るものである。 今年度は最終年度ということもあり、これまでの最大の懸案事項となっていた「モジュレーション空間に属する函数fと滑らかな函数Fに対して,それらの合成函数F(f)は同じモジュレーション空間に属するか?」という基本的な問題に対して重点的に取り組んだ。その成果として(指数に関する「ある制限」のもと)肯定的な解答を与えることができた。同じ問題のソボレフ空間やベゾフ空間に対する解答は1980年代に既に完全に与えられていたが、モジュレーション空間に対しては長らく未解決であった。この成果は、この問題におけるひとつのマイルストーンとも言うべきものである。「ある制限」が何処まで緩められるかについては未解決問題として残されたが、今後これに関する何らかの理論発展がなされていくことを期待したい。
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