本研究は動く映像の集まりを数学的に定式化する枠組みを構築することを目標とし、さまざまなクラスの映像の全体に付加的な構造を入れること、それらに共通の性質とそれぞの個性を見いだすことを目的としている。 まず、2次元と3次元で相違があるものの、大きな共通の枠組みがあることに前年度までの研究の成果として気がついてきている。そして、リー理論のアイディアを盛り込むことで、この着想を具体化することを行った。非写実的な映像をピクセル単位のデータと捉えるのではなく、変形と運動を座標変換とみなし、変換を解析や制御の対象とするという ARAP(as-rigid-as-possible) の技術は、リー群とリー環の言葉で広くまとめることができる。同時に、運動は角度や長さを保つが、変形はそれらを保たないという個性を持つが、それは、リー群のコンパクト性のような位相的な性質、部分群の構造、半直積分解の有無などの構造論的な問題と表現論的な問題に腑分けできることが解明された。(一部は、安生健一、鍛冶静雄、溝口佳寛、Derouet-Jourdanらとの共同研究。) これらの成果は数学界へ研究発表するとともに、コンピュータグラフィックス界へ技術紹介に努め、その用途のための本を書いたり、動画(ビデオ)を製作したり、学生や非専門家向けの講演を行ったりといった各種の活動を合わせて行っている。それらの活動を通じて、理論・応用の両面からフィードバックを得ている。こういった理解によって、今まで個別的に利用・運用されてきた技術に関連づけを与えることが可能になった。1例をあげれば、3次元回転の記述に伴うジンバルロック、第2標準座標、一般カルタん分解、可視性などを橋渡しし、1つの理解から全体への理解へとつなげられる。これは、新しいアルゴリズムや高速化への改良、安定性の向上などに寄与できるものと期待出来る発展性のある結果である。
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