研究課題/領域番号 |
26610027
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
高木 泉 東北大学, 理学研究科, 名誉教授 (40154744)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 退化型反応拡散系 / 拡散成分と非拡散成分 / パターン形成 / 第一種不連続性をもつ定常解 / 安定性 |
研究実績の概要 |
ヒドラの形態形成の数理モデルとして周知の Gierer と Meinhardt による活性因子ー抑制因子系と Marciniak-Czochra による受容体ー結合子モデルは,全く異なる観点から提唱されたものである.本研究は,両者の数学的構造の違いを明かにし,モデルをつくる上での参考に供することを目的としている. 活性因子ー抑制因子系は,二つの生化学物質がいずれも拡散することを前提にしており,Turing の拡散誘導不安定化によるパターン形成の具体例を与えている.ただし,これは数理モデルの具体例であって,具体的な生物現象を説明するものではない.細胞集団におけるパターン形成よりは,一つの細胞内での自発的構造形成のモデルとして有効である可能性があるため,数学的理論を深化する必要がある.本研究では,活性ー抑制因子系の係数を制御する機構を附加することで,領域の幾何学的情報で決まっていたパターンを空間的不均一性を手がかりにパターンが形成されるように修正したモデルを構成した.他方,受容体ー結合子モデルは,拡散性物質(結合子)と非拡散性物質(受容体)が共存するため,拡散方程式と常微分方程式との連立方程式となる.今年度は,反応拡散系の一つの典型例として知られているFitzHugh-Nagumo方程式系のパラメータを適当に選ぶことで,これまでに提唱されていたモデルの定性的性質を,この参照系でも実現できることを明かにした.これにより,定常解の集合の構造と非定常解の長時間挙動に関する詳細な研究の大きな手がかりがつかめた.以上の成果は,二篇の論文として発表され,また五回の口頭発表として専門家に提示された. 研究集会"Mathematical Approaches to Medical and Life Sciences" 及び「拡散成分と非拡散成分が共存する反応拡散系がつくるパターン」を開催した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
退化型反応拡散系の定常解の構成と安定性の判定に関しては,目標を達したと判断できる.しかし,空間的不均一性を含むモデルについては,定常解の構成自体が未解決である.
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今後の研究の推進方策 |
残された問題は,空間的不均一性を含む受容体ー結合子モデルの定常解を構成することが中心となる.まず,この種類のモデルとしては最初に提唱された Sherratt-Maini-Jaeger-Wueller のモデルの定常解を構成することにする.その知見に基づいて,今度は,Marciniak-Czochra のモデルを変数係数化した修正モデルに対して,数値解を求めて,定常解の形状に関する予想をたて,それを証明することを試みる. 定常解の厳密な構成ができれば,その安定性の解析は空間的に均一な場合と同様に解析できるものと予想している.
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次年度使用額が生じた理由 |
空間的不均一性をもつ受容体ー結合子モデルの定常解の構成に関する研究が未完成であるため,研究期間を延長して,本問題を解決することにした.
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次年度使用額の使用計画 |
プリンタインク等の消耗品の購入と成果発表のための旅費に充てる予定である.
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