カオス的遍歴現象は主に高次元のダイナミクスで見出されるものとして知られている。前年度までにミニマルモデル(2次元写像)で得られた成果を高次元に拡張した場合に直面する困難さを把握し、それを解決する方法について具体的な力学系を用いながら研究した。 間欠性ダイナミクスを引き起こすある種のトーラス写像(3次元以上)に関して、2次元以上の準周期軌道の存在が間欠性を駆動するシナリオが考えられる。しかし、与えられた力学系がその種の構造を保持しているかどうかを調べることは一般にそれほど容易なことではない。その困難さは主に2つの理由に起因している。 ひとつ目は回転数を計算する際のリフトの取り方である。高次元軌道を2次元平面に射影すると、射影後にはしばしば軌道の交差が起こる。その交差が困難さをもたらす訳であるが、そこでも時間遅れ座標を導入することによって交差を解消させた。 もうひとつは、射影によって得られる回転数が変わり得る点である。すなわち、ある基本的な回転数の整数係数一次結合のすべての値が射影のとり方によって実現されうる。 今年度の研究では、以上の点に注意しながら具体的な力学系の高次元準周期軌道の回転数を得ることに成功した。回転数の高精度計算のためには昨年度までに得た重み付きバーコフ平均を適用した。それにより、4倍精度の数値計算をおこなうと、10000から100000程度の軌道長で25から30桁程度の精度で回転数を得ることができ、リアプノフ指数の情報と合わせて、その精度の範囲内で回転数が有理数か無理数かを推定することが可能となった。 この手法により、準周期軌道に起因する間欠性ダイナミクスが稀ではないことを明らかにした。
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