研究実績の概要 |
有理数を用いた効率の良い高精度数値計算手法を研究するのが本研究の大きな目標である. この研究にあたっては人工的な例題ではなく, 実際の応用から自然に生まれた問題を目標攻略のための例題とすることが望ましいと思っている. 本年度は下記のような問題を設定, 考察し, 有理数を用いた効率の良い高精度数値計算手法の研究が有益であることを確認した. * 漸近展開による数値評価を初期値とする超高精度 Runge-Kutta 法: 3重積分で表現される超幾何関数の数値計算を (1) 漸近展開で初期値を特異点の近傍で近似計算し, (2) 有理数を用いた Runge-Kutta 法で値を決めていった. 求まった値をモンテカルロ数値積分の値と比較したところ十分妥当な値が得られている. この問題の高次元版では多重数値積分の計算が急速に困難となるが, 漸近展開の計算は容易である. したがって, 漸近展開により初期値計算をおこなうことが望ましいが, 十分な精度を得るには, 漸近展開の特質上, 特異点の近傍で初期値を取ることが不可欠である. 特異点近傍では Runge-Kutta 法の誤差が大きくなるので超高精度 Runge-Kutta 法(mesh h が極めて小さい Runge-Kutta 法)が必要不可欠となり, 有限体と中国剰余定理を用いてこの計算を高速化するという萌芽的アイディアが, この例題の発見により明快な問題として定式化されることとなった. (Risa/Asir による実験的なプログラムを公開予定.)なお, Runge-Kutta 法を適用する常微分方程式の構成には, 別研究プロジェクトの成果である Hilbert driven algorithm を用いた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は "漸近展開による数値評価を初期値とする超高精度 Runge-Kutta 法" という 自然な問題を発見し, 実験的なプログラムを書いた.このプログラムが用いている有理数による Runge-Kutta 法は十分な精度は得られているものの, 極めて低速である. 本年度の目標は問題の困難さを明らかにすることであったので, 目標はおおむね達成された.
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