研究実績の概要 |
有理数で結果を得るための効率の良い高精度数値計算手法を研究するのが本研究の大きな目標である. 本年度は巨大な多変数超幾何多項式の厳密数値計算を行なう問題を設定, 考察し, modular method を用いた効率の良い数値計算手法を二元分割表に付随する多変数超幾何多項式の満す線形差分方程式系(contiguity relation)について実装し, 応用も研究した. 二元分割表の大きさを r_1×r_2とする.r_iを一つ固定した状況では下記のように多項式計算時間で計算できることを後藤, 橘 らと示しさらにプログラムとして実装、公開した. 命題:n×n行列の掛け算に要する計算量を$O(n^3)$とするとき上記の contiguity relation を得るための計算量の上限は以下である. (1) r_1を固定し, r_2 --> ∞を考えるときO(r_2^{3r_1}). (2) r_2を固定し, r_1-->∞を考えるとき O(r_1^{3r_2}).
命題:n桁の数の四則演算が O(n^2)で計算できると仮定する.Cをプロセス数, N_pを中国式剰余定理に用いる d_p 桁の素数の数と仮定すると 超幾何多項式 F(β;p) は max(O(|β|r^2 N_p d_p^2/C),O(rN_p^4 d_p^4/C))を計算量の上限, つまり |β| の線形時間で計算できる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
統計における2元分割表の正規化定数は Aomoto-Gel'fand の多変数超幾何関数で書けるが, その数値計算を行なうためにこの多変数超幾何関数の contiguity relation を後藤が別の研究プロジェクトの中で導出した. この contiguity relation は多変数線形差分方程式(漸化式)とみなせるが, その数値計算を有理数で行なうのは莫大な計算量を必要とする. 代表者は後藤、橘と共にこの計算を modular method (有限体と中国式剰余定理を用いる方法)を用いて高速化するアルゴリズムを提案, 実装し, 元々の統計の問題について有効であることを示した. 計算のための Risa/Asir パッケージ gtt_ekn を公開中.
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今後の研究の推進方策 |
* 昨年度の結果はまだ邦文による査読無の発表であるので, 英文による研究論文を執筆する. * 有限体と中国式剰余定理を活用する, つまり modular method の並列アルゴリズム, プログラムによる Runge-Kutta 法を実装し有効性を検証する.また理論面からは, 最近研究の進展が著しい p-adic computer algebra の成果を活用して, 近似や収束性の議論を行なう.
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