最終年度では昨年度検討を開始したパーシステント図の生成元の個数変化を許容するポイントクラウド追跡法に関して,理論および計算アルゴリズムの改善に取り組んだ.まず理論的な側面としてはパーシステント図の微小変形が誘導するポイントクラウドの変化をヒルベルト空間上での勾配流として扱い,そこから定まる極値問題として追跡法を定式化しなおした.これにより既存の極値問題解法を本手法に適用することで,最適化理論ですでに開発されている高速計算法が使用可能となった. また最適化法との接点が見出されたことから,パーシステント図に対するLASSO解析の可能性についても研究を行った.LASSOは近年スパースモデリングの分野で注目されているL1最適化法であり,得られる最適解が疎構造をもつ.応用上は疎構造をもつことで現象の理解にもっとも影響を与える因子の特徴づけを可能とし,このことから現在幅広い分野で使われている.ここではパーシステント図を説明変数とするデータに対して線形回帰問題を考えLASSOを適用する理論的枠組みとアルゴリズムの構築を検討した.この際,パーシステント図のベクトル化にはパーシステント像と呼ばれる手法を用いた.これはパーシステント図を平面上の適当なグリッド分割の上で定まるヒストグラムとみなし,各グリッド上での値を成分値とするベクトルである.本研究についてもいくつかの予備的な成果が得られ,萌芽研究として有意義な新たな方向性を見いだすことに成功した. また応用としてはタンパク質の構造解析,および材料科学に現れる諸問題への適用を行った.これらは現在論文を執筆中である.
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