研究課題/領域番号 |
26610043
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
尾中 敬 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (30143358)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 星間塵 / 宇宙鉱物学 / 赤外線観測 / 密度汎関数理論 |
研究実績の概要 |
1995年に打ち上げられたヨーロッパの赤外線衛星ISOは、それまで彗星でしか観測されていなかった結晶質珪酸塩の赤外線微細構造バンドを、進化した星、若い星等多くの天体に検出した。非晶質の珪酸塩のスペクトルは微細構造がなく、宇宙空間に存在するダスト粒子の組成等の情報の推定を行うことに困難があったが、結晶質珪酸塩が示す微細構造バンドの検出はこの状況を一変させた。微細構造バンドは珪酸塩の結晶構造、組成に敏感に依存するため、これらの物質の性質、構造の推定が可能となることが期待される。しかし、これまでのところ振動モードについての理論的な基礎付けがなされていないため、観測データの解釈は実験室データとの経験的な比較にとどまり、宇宙鉱物学(astromineralogy)も期待されたほど大きく発展していない。ここではは近年の進展が著しい密度汎関数理論(DFT)を用いた手法を天体で観測されている物質に初めて適用することで、astromineralogyに理論的基礎を築き、新しい段階に進めることを目指す。これまで、鉱物の振動に特化したソフトウェアの導入を行い、簡単な構造の鉱物(シリカなど)の振動についての計算を進め、この手法の適用範囲を調べている。またDFT計算の応用の一つとして、重水素を取り込んだ多環式芳香族炭化水素(PAH)の赤外線バンドDFT計算を行い、特にイオン化した状態でのバンド強度、波長を推定し、「あかり」衛星の観測との比較を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現在まで鉱物に適用した密度汎関数理論計算のソフトウェアの導入を進めてきたが、予想以上に時間がかかり、まだ結果を十分に評価できるとこまで至っていない。簡単な構造の鉱物の計算は行っているが、天体に存在すると考えられている鉄、マグネシウムを持つケイ酸塩について、特に構造とバンドとの関係がまだ十分に考察できていない。このため、不純物あるいは温度とバンドシフトの関係について物理的な理解まで至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
今後はいろいろな鉱物構造についての計算を進め、まずこの手法により、どこまで物理的な解釈が進められるかの検証を行う。その結果に基づき、天体現象で検出されているマグネシウム、鉄などを含むケイ酸塩のバンドの起源、不純物、温度に対する依存性などについて、パラメータを変化させて明らかにする予定である。これらの考察に基づき、宇宙鉱物学の理論的基盤を確立につながる第一歩を目指す。また成果のあった重水素化したPAHのDFT計算をさらにいくつかの分子について行い、DFT計算の天文への応用を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
鉱物用DFT計算プログラムの更新もあり、その実行に予想以上の時間がかかった。現有のサーバーの能力を使って、まだ結果を十分に評価できる計算結果を得るまでに至らなかったため、天体に検出されている実際の鉱物の計算を次年度に行うこととした。
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次年度使用額の使用計画 |
現有計算機によるCrystalによるDFT計算を進め、天体で検出されているかんらん石等の各振動モードの特定を行う。重水素化したPAHの計算をさらに進め、これらと観測との比較を行う。最適なプラットフォームを検討して、ハードディスク、メモリーなど必要な増強を行う予定である。
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