研究課題
1995年に打ち上げられたヨーロッパの赤外線衛星ISOは、それまで彗星でしか観測されていなかった結晶質珪酸塩の赤外線微細構造バンドを、進化した星、若い星等多くの天体に検出した。非晶質の珪酸塩のスペクトルは微細構造がなく、宇宙空間に存在するダスト粒子の組成等の情報の推定を行うことに困難があったが、結晶質珪酸塩が示す微細構造バンドの検出はこの状況を一変させた。微細構造バンドは珪酸塩の結晶構造、組成に敏感に依存するため、これらの物質の性質、構造の推定が可能となることが期待される。しかし、これまでのところ振動モードについての理論的な基礎付けがなされていないため、観測データの解釈は実験室データとの経験的な比較にとどまり、宇宙鉱物学(astromineralogy)も期待されたほど大きく発展していない。本研究では近年の進展が著しい密度汎関数理論(DFT)を用いた手法を天体で観測されている物質に初めて適用することで、astromineralogyに理論的基礎を築き、新しい段階に進めることを目指した。鉱物の振動に特化したソフトウェアの導入を行い、鉱物の振動の計算を行った。DFT計算の専門家を招聘し、パラメータの最適化、計算の効率化、精度などについて十分な議論を行い、シリカなど、天体に関連する鉱物の振動モードを特定し、天体観測との比較を進めた。またDFT計算の応用の一つとして、重水素を取り込んだ多環式芳香族炭化水素(PAH)の赤外線バンドDFT計算を行い、特にイオン化した状態でのバンド強度、波長を推定し、「あかり」衛星の観測との比較を行った。PAHに星間の重水素が多く取り込められているとする従来の仮説に対して、新しい計算を用いても予想より輝線バンド強度が1桁小さいという結論は変わらないことが確かめられた。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 5件、 招待講演 2件)
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