研究課題/領域番号 |
26610051
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
武井 大 独立行政法人理化学研究所, 放射光科学総合研究センター, 基礎科学特別研究員 (10709372)
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研究分担者 |
香村 芳樹 独立行政法人理化学研究所, 放射光科学総合研究センター, ユニットリーダー (30270599)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | X線光学 / 望遠鏡 / Berry位相 / 横滑り現象 / 放射光 / SPring-8 / 単結晶 / 干渉計 |
研究実績の概要 |
歪んだ単結晶にBragg角度付近で入射したX線は、Berry位相の効果で結晶中を大きく伝搬する。これはX線の「横滑り現象」と呼ばれ、日本の大型放射光施設SPring-8で2010年に発見された。本研究では、(1)まず横滑り現象の物理に対する理解を深め、(2)これを全く新しいX線制御技術として磨き上げ、(3)さらにX線の干渉効果を利用して天体の大きさを測定する将来的なX線望遠鏡への応用可能性を見極める事を目的とする。
初年度となる本年度は、おもに目的(1)と(2)に取り組んだ。まずは再現性の高い手法で横滑り現象を発生させるため、専用の薄膜結晶マウントを製作した。結晶マウントにはピエゾ素子を組み込み、結晶の歪みを動的に制御することを可能にした。次に、SPring-8のBL29XULビームラインで歪み制御を試みた結晶にX線をあてて、安定した出力が確保できる事を確認した。横滑りして出射したX線の角度成分を調べ、入射した光の波面が大きく崩れない事を実証した。結果、先行する理論予測が正しい事を証明して、さらに横滑り現象を利用すればX線の光軸を平行移動できる事がわかった。また、ピエゾ素子に任意の電圧を与える事で能動光学を作り上げ、出射光の位置や強度を微調整する事も可能となった。これを応用することで、500Hzの簡易的なX線スイッチとして作動させる事に成功した。単結晶の材質による応答の違いにも着目し、サンプルとしてシリコン単結晶の他に超高純度の人工ダイヤモンド単結晶を製作した。これらを利用して放射光実験を行い、材質や結晶の厚みにおける出力の強度依存性を調べた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は設定した目的に対しておおむね期待通りの進展があった。理論予測をサポートする実験結果から横滑り現象の物理に対する新たな知見が得られ、さらに装置開発を進めてこれまでに無い手法でX線を制御する事に成功した。これらの結果をまとめ、ひとつの論文として投稿できた。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画に従い、最終年度である次年度はさらに横滑り現象によるX線制御技術に磨きをかけて、将来的にX線望遠鏡の光学装置として応用できるかどうか検討を進める。実際に実験を進めていくなかで、当初は予測できなかった点も含めて様々な課題も見えてきた。まず、X線の吸収を抑えて出力の効率を上げるために結晶を可能な限り薄く製作したが、予想に反して結晶にある程度の厚みを持たせた方がより多くのX線を取り込んで伝搬できる事がわかった。また、サンプルとなる結晶が薄膜ゆえ取り扱いが難しく、歪み制御装置の誤作動も相まって実験中にダイヤモンド単結晶が破損してしまうトラブルにも見舞われた。さらに、横滑り現象でX線干渉計を作る場合には結晶の縁の部分による回折がノイズとして悪影響を及ぼすため、これを軽減する工夫も必要となる。これらの課題を着実に解決して全目的の達成を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験を進めていくなかで結晶の厚みと出力効率に対する挙動が当初の予想と異なる事が判明したため、本研究の最重要構成要素かつ高額なダイヤモンド単結晶を本年度の結果を踏まえてから製作した方がより効果的に研究が進むと判断して、次年度に分配金の一部を持ち越した。
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次年度使用額の使用計画 |
持ち越した分配金は予め次年度分として請求した助成金とあわせ、実験装置の購入・加工、データ解析用の計算機・ソフトウェア、論文投稿費、学会発表の旅費・参加費に使用する計画である。
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