高エネルギー素粒子実験では最近の加速器の進歩・ビーム強度の大幅向上によって、従来では実験不可能であった稀反応事象の研究が可能となり、粒子識別装置の重要性が増している。本研究では透明な光ファイバーを輻射体としたしきい値型とTOP型の2種類のチェレンコフカウンターの開発研究を行った。 荷電粒子が光ファイバーに垂直に入射する場合は全てのチェレンコフ光が全反射しない。入射角度を傾けてゆくと一部のチェレンコフ光がファイバー端まで伝播する。このしきい値角度は1GeV/cのπでは約25度、Kでは30度である。またπでもKでも伝播する角度、例えば35度に設置した場合は伝播時間差はファイバー長1m当たり約60psecである。クオーツTOPカウンターの伝播長は最大4m程度であるが、ファイバーTOPでは30~50m程度の伝播長が可能である。 本研究では直径1mmで長さ50mの透明ファイバーを30本×10層束ねたファイバーシート等を作成し、東北大学電子光理学研究センターの500MeV陽電子ビームを用いてチェレンコフカウンターとしての性能評価実験を行った。一般にチェレンコフカウンターではknock-on electron(δ線)によるチェレンコフ発光が存在するため3%程度の粒子識別の誤りが生じる。そこでビーム入射角度を変化させてチェレンコフ光観測効率を測定し、入射角度の変化5度以内で測定効率が3%から97%に上昇するなら、しきい値型チェレンコフカウンターとして使用可能と判定した。実験結果は、伝播長50cmの場合は厚さ12層程度、伝播長10mの場合は厚さ20層程度で上記の条件を満たすことが分かった。 時間分解能の伝播長依存性を測定することによってTOPカウンターの可能性を検討した。実験結果は時間分解能が伝播長にほぼ比例して悪化した。すなわちファイバーTOPは困難と判断した。
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