ナノテクノロジーを用いた薄膜太陽電池(ソーラーセル)を使った荷電粒子検出素子の可能性を探る研究である。本研究の目的には、大面積化が比較的簡単なこと、放射線耐性に大変優れることなどから、CIGS系の薄膜ソーラーセルが適していると判断した。このCIGS系ソーラーセルの開発をしている研究機関、企業を探す段階に移行し、最終的には株式会社ソーラーフロンティアからサンプルの提供を受けることができた。 このサンプルの測定は、東京大学先端科学技術研究センターにて行い、基本パラメータであるI-V特性、光の量子効率の波長依存性を評価した。結果は光の波長400 nm から1200 nmの広い波長領域にわたり量子効率80%以上と、大変優れたサンプルであった。 時間幅の短いパルスをこのサンプルセルに照射した。目標は粒子が通解した時に輻射するチェレンコフ光と同程度の光であるが、まずは強度の強い光で測定を行った。ソーラセルは高い内部抵抗を持つため、この信号の読出にオペアンプを用いた増幅回路を設計、製作した。光パルスの照射については、LEDからの光を大口径のファイバーでサンプル・セルに導くシステムを構築し、光パルス生成時のノイズが測定系に影響しないようにした。この測定では、光パルスに対する反応も測定できたが、微弱光の場合にはノイズ低減が必要であった。様々なオペアンプを使ったアナログ回路を設計したが、チェレンコフ光が観測可能なレベルまでの到達には至らなかったが、実現に向けての具体的課題を明らかにすることができた。 平行して、宇宙線を用いてソーラセルの応答を測定するシステムを製作した。これにはシンチレータと光電子増倍管で構成するカウンターの信号をFPGAに入れ、ファームウエアで論理回路を組み上げた。この応用はATLAS実験のカロリーメータの開発に使われている。 これらの実績は日本物理学会において数回にわたり報告した。
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