研究課題/領域番号 |
26610065
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研究機関 | 富山高等専門学校 |
研究代表者 |
阿蘇 司 富山高等専門学校, 電子情報工学科, 教授 (30290737)
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研究分担者 |
原 正憲 富山大学, 水素同位体科学研究センター, 准教授 (00334714)
高田 英治 富山高等専門学校, 電気制御システム工学科, 教授 (00270885)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | Geant4 / シミュレーション / シンチレータ / 液体シンチレータ / 消光効果 / ケミカルクエンチング / 液体シンチレーションカウンタ / モンテカルロ |
研究実績の概要 |
放射線物理シミュレーションツールキットであるGeant4を基盤とする液体シンチレーションカウンタ(LSC)のシミュレーションを用いて、ベータ崩壊核であるH-3とC-14の計数効率を見積もり、測定値との比較を行った。測定は市販の標準試料を用い、それぞれ消光効果の異なる10個の試料からなる。シミュレーションでの消光効果は、昨年度の成果からシンチレータの発生光子数を調整することにより行い、光電子増倍管の達したシンチレーション光の波高分布を再現する発生光子数での条件下で、測定と一致する計数効率が得られることを確認した。この成果により、クエンチ指標の1つである外部標準線源チャネル比と発生光子数、そして計数効率の対応を導くことができた。 更に、測定とシミュレーションでの波高分布を比較する際の指標として、波高分布の特徴点についての検討を行った。設定した特徴点で、シミュレーションと測定の波高分布が一致することを条件としたとき、計算による計数効率は測定値の1.3%の範囲内で得られることを確認した。この成果により、測定された波高分布の特徴点の値と発生光子数、そして計数効率が対応付けされ、系統的かつ効率的にシミュレーションによる計数効率の導出ができることを示した。 その他の核種への応用例として、電子捕獲崩壊のI-125のシンチレーション波高分布のシミュレーションを行った。液体シンチレーションカクテルの含有物により波高分布が変化すること、そして計数効率が変化することを示した。 当初開発のシミュレーションソフトウェアは、日立アロカメディカル(株)社製のLSC装置(LSC-5100)をモデリングしたが、汎用性の向上と最新装置への対応を目指し、リファクタリングを行った。新開発のソフトウェアは、TDCR(Triple to Double Coincidence Ratio)法にも対応可能な基盤となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の進捗状況は、当初の研究計画に照らし合わせて、おおむね順調に進展している。 本研究では、LSCの高精度・高度化へのシミュレーション展開を目指して、シンチレーション発光・消光モデルを新に加えた液体シンチレーションカウンタ(LSC)のシミュレータを開発することである。昨年度までの成果を発展させて、本年度は次にあげる新な成果が得られている。 (1)試作したシミュレータを用いてH-3およびC-14の波高分布と計数効率を見積もった。消光効果を含む試料に対しても、測定と一致する計数効率を得られることが確認できた。(2)化学的要因による消光効果を、シンチレーション光の発生光子数としてモデル化した。外部標準線源チャネル比(ESCR)法によるクエンチング指標、発生光子数、計数効率の関係を対応付けすることができた。(3) 波高分布の特徴量を導入することにより、系統的に波高分布を比較して発生光子数を見積もり、その結果として計数効率を導出する手法を開発した。(4)I-125のように電子捕獲によって連鎖的に特性X線/オージェ電子が発生する複雑な過程を経る核種においても、計数効率の見積もりに利用可能であることを示した。特に液体シンチレーションカクテルの組成が計数効率へ与える影響を評価できることを示した。(4)ソフトウェアの再構築を行い、最新のLSC装置への対応可能な基盤を作成した。 これらの成果から、消光効果を含むシミュレータの開発が計画通りに進展しており、開発したシミュレータがLSC装置の特性および高精度化のための評価に応用可能であることを示す実績を示せたことが、進捗状況の判断理由である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果を元に、H27年度に再構築した液体シンチレーションカウンタ(LSC)のシミュレーションソフトウェアに機能を集約して、消光効果を含むシンチレーション波高分布および計数効率の見積もりを行うシステムを完成させる。シミュレーションを汎用的にLSC装置に適用するにあたり、光電子増倍管等の増幅率などの装置パラメタを測定により得て入力する必要がある。これまでは測定対象の試料の中で消光効果が無視できる試料との比較によって装置パラメタを設定していたが、対象試料の核種に依存して変わる可能性がある。そこで、外部標準線源チャネル比(ESCR)法の測定波高分布とシミュレーションとを比較することによってパラメタを求め、測定対象の試料核種とは独立にLSC装置特性を設定するための開発評価を行う。具体的にはESCRの波高分布の測定を行い、シミュレーションとの比較することにより装置パラメタを導出する。また、波高分布とシンチレーションカクテル特性との関係を明らかにするために、発光波長分布の違いによる計数効率への影響について考察する。 これまでの研究成果を含めて得られた成果を、国内外の学会等で発表するとともに、論文等にまとめて発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
これまでの成果から、液体シンチレーションカウンタ装置の外部標準線源チャネル法(ESCR)に関するシミュレーションと測定値の比較検証を行うことにより、本研究課題が目標とする手法の確立がより確実なものとなると判断した。ESCR法に関するシミュレーションの評価を既に開始しており、測定値との比較を行うことによって学会発表に値する成果が得られることが確実であり、測定の実施経費と成果発表の旅費が必要であると判断した。そのため、次年度への繰越を希望する。
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次年度使用額の使用計画 |
外部標準線源チャネル法(ESCR)による測定およびシミュレーションを行うために必要な消耗品費、ならびに得られる研究成果の発表旅費に充当する計画である。
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