前年度は、エネルギー損失の大きな重粒子線照射により有機半導体検出素子からの信号を検出し、原理の実証はできた。空気中でα線による検出素子からの信号を検出できると、もっと研究を効率的に進められる。今まで素子を数種類試作したが、有機半導体の膜厚が薄く入射粒子によるエネルギー損失が小さいために検出信号の波高も低く、α線では検出信号とノイズをはっきり判別できなかった。 そこで、試作素子間の電荷収集効率比較の目安として、大きな信号が得られる短波長の青色LED光を利用することにした。LED光度は、パルス幅変調方式で与えたLEDへの印加電圧で調整した。光と粒子線では素子内で励起子(電子-正孔対)が生成されるプロセスは違っても、励起子が拡散し解離した電荷が集電極へ移動し読み出される過程は共通なので、α線より強い粒子が入射したときのシミュレーションになる。まず、α線検出に対応したSi PINフォトダイオード(PD)でα線による信号を確認し、読み出し回路の性能が十分である事を確認した。次に、青色LEDによるPDからの信号を観察し、それと同じ位の信号波高が検出されるときの有機素子のLED電圧を比較した。LED-デバイス間距離が同一でないので大まかな比較になるが、素子No.2(500μm厚の有機TFT)のLED電圧3Vに対して、素子No.2(P-N各75μm厚の有機ダイオード)が0.3V、Si-PDが0.1Vであった。有機TFTの電荷収集効率がまだ不十分であるのはわかる。LEDによる予備実験は、読み出し回路のチェックと、素子への印加電圧等の実験条件の最適化にも役立つ。 今後も、有機層構造の工夫や厚みを増す等により、励起子生成率向上をはじめとした電荷収集効率改善を進める。
|