研究課題/領域番号 |
26610077
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
藤原 正澄 大阪市立大学, 複合先端研究機構, 特任助教 (30540190)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 量子エレクトロニクス / 光物性 / 自己組織化 / 熱工学 |
研究実績の概要 |
本年度は、電子スピン共鳴検出が可能なワイドフィールド顕微鏡系の構築を中心に研究を行った。既存の顕微鏡はスキャニング型の共焦点顕微鏡系であったため、高感度CCDカメラを用いてワイドフィールドイメージングが可能なように系を変更した。装置構築の上で必要な制御用パソコンとプログラミングソフトを導入した。ガラス基板上で電子スピンを励起できるように、半導体リソグラフィ技術を用いて、厚さ100nm、幅20マイクロメートルのAu/Crマイクロ波ストリップラインを形成した。これを用いた電子スピン操作に関しては、ストリップラインと外部導線の接着が弱く、接着手法を改善中である。しかしながら、この事による研究の遅延を防ぐために、銅細線を用いた簡易手法を現在は採用している。この手法でも、電子スピン操作の実験そのものへの影響はない。ただ、試料準備を考えると、ストリップラインへの移行が望ましいので、来年度に完全移行を行う。 電子スピン操作のためのマイクロ波パルス技術に関しては、想定以上に複雑であったため、共同研究先のドイツにおいて技術研修を行った。これにより、どのようにNV中心の電子スピンをマイクロ波パルスで効率的に操作するかという技術を修得する事ができた。 ダイヤモンドナノ結晶自己組織化膜に関しては、共同研究者からの助言を基に、検討を重ねた結果、シンプルにスピンコート法によってダイヤモンドナノ結晶を分散させ、偶然、配列化した部分を選択的に使用する方が高い空間分解能が得られ、技術的にも容易であるとの結論に至ったため、ナノダイヤモンド配列作成手法の変更を決断した。現在、高密度にNV中心を含むナノダイヤモンドをガラス基板上に分散させ、蛍光画像を上述のCCDカメラによって取得する実験を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は異動に伴い、実験装置の移設等があったため、研究進捗は当初目標に対してやや遅れているという判断をした。 しかしながら、電子スピン操作に関するノウハウなど、目的達成の核となる技術に関しては、得る事ができたため、来年度の研究遂行にとって重要な進展が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究は、電子スピン位相緩和時間計測システムによる、NV中心の電子スピン操作を実現し、イメージングや実際の試料の発熱をどの程度の感度や応答速度で検出可能かについて定量的な評価を行う。研究の進展速度を上げるために、現在構築中のCCDを用いた光学系を用いず、既存のアバランシェフォトダイオードを用いた光学系を活用して測定系(特にサンプル周辺マイクロ波特性、温度特性など)の性能評価を優先する(より早い信号処理が可能なため、性能評価には都合が良い)。この顕微鏡で金ナノ粒子を光照射によって発熱させた場合の光熱信号を取得する。これにより光熱信号を実際に取得し、実応用としてどの程度の温度感度や応答速度を有するかを先行的に調べる。これと平行して、CCDを用いたワイドフィールド顕微鏡系で同様の光熱信号の取得も目指す。 センサ部となる、ナノダイヤモンド配列試料に関しては、適切なポリマー材料を探索すると共に、遠心分離器を用いて、ナノ粒子の粒径分散を小さくする事も目指す。現在使用するナノダイヤモンドは粒径にバラツキが大きく、規則的なナノ粒子配列構造を実現しにくい。現所属研究室には、超遠心分離器も所有しているために、良質なナノダイヤモンド試料を準備できると考えている。本年度はこれらの成果をまとめて、学会で発表する予定である。秋と春に行われる、物理学会および応用物理学会のいずれかで研究発表を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は研究代表者の異動があった事で、測定装置の立ち上げが遅れたためである。
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次年度使用額の使用計画 |
CCDカメラを用いた電子スピン操作システムの構築のために、多数の光学素子・光学実験部品などの消耗品の購入を予定している。また、NV中心を励起するための緑色CWレーザーの購入も予定している(30万円)。また、NV中心を高密度に分散させたナノダイヤモンド試料が新たに発売されたので、その購入も予定している。 試料調製のためには、遠心分離の際に必要な化学実験の消耗品(試薬、ガラス器具)の購入を行う。
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