研究課題/領域番号 |
26610079
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
野村 晋太郎 筑波大学, 数理物質系, 准教授 (90271527)
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研究分担者 |
三沢 和彦 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80251396)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 半導体 / 二次元電子系 |
研究実績の概要 |
円偏向THz波照射下において、半古典的には電子は円運動の軌道が励起されると考えられる。THz波の角振動数をω、電子の半古典的散乱時間をτとすると、ωτ>>1の場合に円運動の軌道が形成されることが知られ、この場合、試料端近傍では、量子ホール状態と似た半古典的スキッピング軌道が形成されると考えられる。これは、円偏向THz波照射により、正、若しくは負方向の軌道角運動量が励起され、電子の占有が熱平衡状態からはずれて、軌道角運動量空間での電子系の反転対称性の破れた非平衡分布をとることと理解される。ωτ>>1の条件を満たすような試料として、既に研究実績のあるGaAs/AlGaAsヘテロ接合ホールバー試料を作製して測定に用いた。また、新規に光照射のためのMoS2薄膜試料を作製した。ベクトル波形整形器を用いて差周波-9~+9 THzの範囲内にて円ねじれ偏光パルスによってクライオスタット中に冷却した試料端近傍を光励起し、電子の非平衡分布によって生じる電流を円ねじれ偏光パルスと同期してロックインアンプで検出した。その結果、正と負の差周波で光電流が非対称であることが見いだされた。この結果は円ねじれ偏光パルス照射により系の時間反転対称性が破れていることを示唆する。比較のため、通常の直線偏向フェムト秒レーザーパルス光を試料に照射して空間マッピングを行い、生じた光電流の光励起強度依存性を調べた。その結果、同じ光励起密度下においてベクトル波形整形波照射時の光電流の大きさは、直線偏光フェムト秒レーザーパルス光照射時の光電流の値より大きいことがわかった。以上の結果から、円ねじれ偏光パルス照射による効果を実験で観測していることが示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はヘリカル光照射試料作製とTHz波照射効果の基礎的評価を実施する計画であった。実際、1)既に研究実績のあるGaAs/AlGaAsヘテロ接合ホールバー試料を作製し、層状半導体であるMoS2等に電極を形成した試料を試作し、その電気伝導特性と光照射特性の基礎的評価を実施した。さらに2)ベクトル波形整形器を用いて差周波-9~+9 THzの範囲内にて円ねじれ偏光パルスによってクライオスタット中で冷却した試料端近傍を光励起し、電子の非平衡分布によって生じる電流を円ねじれ偏光パルスと同期してロックインアンプで検出して、THz波照射効果の基礎的評価を実施した。その結果、正と負の差周波で光電流が非対称であることが見いだされ、円ねじれ偏光パルス照射により、系の時間反転対称性が破れていることが示唆された。以上の結果より、当初研究計画が概ね順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
当初研究計画書に基づき、平成27年度には、(1)円偏向THz波照射による軌道角運動量空間での電子系の非平衡分布の研究、(2)ラマン過程を用いた軌道角運動量空間での電子系の非平衡分布の研究を実施する。以上の研究により、円偏向THzパルスによって無磁場下の試料端に生じる端電流の観測とその解明を行う。このことにより無磁場下における量子ホール状態の実現への端緒を得ることとなり、無磁場下における反転対称性の破れに起因する新規な光-物質相の研究のさきがけとなると期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた研究成果発表のための外国出張を取りやめ、研究打ち合わせのための国内出張に切り替えたため次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額分は翌年度分として請求した助成金と合わせて、研究成果発表のための旅費として使用する計画である。
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