研究課題
最近、開発されたベクトル整形パルス発生法では、光の電場の二つの偏光方向の位相をコントロールし、時間軸上で任意電場パルス波形を発生させることが可能となった。この手法を用いて、直線偏光の向きが時間経過にともない回転するねじれ偏光パルスを、ねじれのTHz帯の周期で生成することが可能となった。本研究の目的は、このベクトル整形パルスを無磁場下の二次元電子系試料に照射することにより、軌道の角運動量空間での非平衡分布を生じさせ、その効果を電気伝導特性により調べて新規な光―物質相を開拓することである。本研究では、このベクトル整形パルスの二次元電子系の端への照射効果を調べるために最適化した構造をもつGaAs/AlGaAs単一ヘテロ接合ホールバー構造試料を新規に設計・作製した。この試料を77 Kもしくはヘリウム温度のクライオスタット中に設置し、-9~+9 THzで偏光が回転するねじれ偏光パルスを照射し、ホールバー構造のオーミック電極間に生じる光電流をロックインアンプで同期して検出し、端電流について調べた。その結果、試料端近傍を光励起した際に生じる光電流がねじれ偏光パルスのねじれの向きに対して非対称であることを見いだした。これはインパスシブ誘導ラマン散乱過程によって電子系が励起された結果であると考えられる。比較のため、通常の直線偏向フェムト秒レーザーパルス光を試料に照射して空間マッピングを行い、生じた光電流の光励起強度依存性を調べた。その結果、同じ光励起密度下においてベクトル波形整形波照射時の光電流の大きさは、直線偏光フェムト秒レーザーパルス光照射時の光電流の値より大きいことがわかった。これは、ねじれ偏光パルス照射によって系の時間反転対称性が破れていることを示唆した。本研究の成果は、系の時間反転対称性が破れに起因する新規な光―物質相の開拓のためのさきがけとなった。
すべて 2015 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
Appl. Phys. A
巻: 121 ページ: 1341-1345
DOI 10.1007/s00339-015-9420-9
Sci. Rep.
巻: 5 ページ: 15097/1-10
doi: 10.1038/srep15097
http://www.px.tsukuba.ac.jp/~snomura/