研究課題/領域番号 |
26610080
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
加藤 雄一郎 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (60451788)
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研究分担者 |
嶋田 行志 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (20466775)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ナノチューブ・フラーレン / 光物性 / 物性実験 |
研究実績の概要 |
2014年度は、単一の架橋カーボンナノチューブにおける励起子‐励起子消滅過程を定量的に理解するため、実験・計算・理論の全ての側面から、フォトルミネッセンスの励起強度依存性を調査した。シリコン基板にあらかじめ溝を加工し、化学気相成長法によって単層カーボンナノチューブを合成することにより、架橋カーボンナノチューブを得た。試料走査型分光顕微鏡を用いて、励起分光測定によるカイラル指数の同定と偏光測定による配光角の特定を行ったうえで収集した多数の単一ナノチューブの励起光強度依存性データを解析対象とした。実験的に確認したパラメーターを用いたモンテカルロ・シミュレーションを実行し、励起強度の関数として定常状態における平均の励起子数を求め、これを実験と比較することにより、炭素原子あたりの吸収断面積および発光量子効率に関する知見を得た。また、このシミュレーションから、高励起強度領域では励起子緩和は励起子‐励起子消滅過程が支配的になっており、そのレートは励起子密度の三乗に比例していることが明らかになった。これは、二体散乱の頻度は密度の二乗に比例するという二次元以上の系とは異なる振る舞いで、一次元系に特有の依存性である。シミュレーションは実験結果とよく一致するため、単層カーボンナノチューブにおける励起子の拡散と散乱現象は強い一次元性を有することが確認できた。ここで、励起子‐励起子消滅の頻度が三乗に比例していることを明示的に取り入れた解析的モデルを構築したところ、実験結果をよく再現できることが分かり、シミュレーションに頼らずとも簡易に励起子密度を推定することが可能となった。励起子‐励起子消滅過程が光子相関に与える影響を調査するため、測定系の構築にも着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では本研究では単一の架橋カーボンナノチューブにおける光子相関測定を行い、その架橋長さやカイラル指数依存性、そして励起強度の影響を詳細に調査し、励起子-励起子消滅過程による室温における単一光子発生の有無を検証することを目的としているが、今年度は励起子-励起子消滅過程を定量的に評価することを優先したため、光子相関測定系の構築には至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
今後も引き続き測定系の構築に取り組み、単一の架橋カーボンナノチューブに対する光子相関測定を実現する。その際、ナノチューブの評価に利用している顕微フォトルミネッセンス系に組み込み、評価後にそのまま光子相関測定を始められるように構築し、効率よくデータを収集できるようにする。検出感度を高めるため、光学系の最適化や長時間積算を可能とする試料位置追跡システムの実現にも取り組む。今年度の研究により、励起子-励起子消滅過程の理解が深まったため、計算や理論を併用して光子相関測定を行う際の条件をあらかじめ推定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は単一の架橋カーボンナノチューブにおける光子相関測定を行うために測定系を構築する計画であった。しかし、光子相関測定を行う際の条件をあらかじめ推定するため、フォトルミネッセンスの励起光強度依存性データに対してシミュレーションとの比較による解析を進めたところ、励起子‐励起子消滅の頻度が三乗に比例するという想定外の結果を得た。これは光子相関測定を行う際にも重要となる現象であるため、この結果を整理して励起子-励起子消滅過程を定量的に理解することを優先する必要が生じた。そこで、計画を修正して励起子-励起子消滅過程の解析を先に進め、その後に光子相関測定系を構築することとしたため、未使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
当該研究費は、主として測定系構築に必要な光学部品などの消耗品に支出し、ほかには成果発表のための旅費や学会参加登録費、試料作製に必要なクリーンルーム使用料などに充当する計画である。
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