2016年度は、通信波長帯Hanbury-Brown-Twiss干渉計により単一の架橋カーボンナノチューブにおける光子相関のデータ収集を進め、モンテカルロ・シミュレーションと比較したほか、簡易な理論モデルにより実験データを説明できることを示し、単一光子発生機構を明らかにした。 光子相関測定では、室温におけるアンチバンチングデータを収集した。励起光強度依存性を測定したところ、低強度では二光子相関係数が小さくなり、単一光子純度が向上することが観測された。一方、高強度でも相関係数が1に達することはなく、サブポアソン性を保つことが明らかになった。さらに、カーボンナノチューブの架橋長さが長いものや励起子拡散長の長いことが判明しているカイラリティでは相関係数が低いことも分かった。 これらの実験結果をモンテカルロ・シミュレーションと比較したところ、整合性のある強度依存性・架橋長さ依存性・拡散長依存性が確認された。さらに、シミュレーションデータを利用して励起子数や消滅過程を調べることにより、励起子-励起子消滅過程が支配的になるような条件下で単一光子が生成されやすいことが明らかになった。つまり、励起光の直径が小さく初期密度が高い場合や、拡散係数が大きく励起子同士の衝突確率が高い場合が単一光子発生に有利であることが分かった。また、長いカーボンナノチューブでは端部での緩和が抑制されるため、相対的に励起子-励起子消滅過程の割合が大きくなり、単一光子純度が改善することも判明した。 以上の結果を踏まえ、簡易な理論モデルを構築した。低励起強度では、初期励起子数が2以下であることを利用し、二光子相関係数を励起子-励起子消滅確立を用いて表すことができた。また、高励起強度では発光強度が飽和することから、励起子数のゆらぎが強く抑制されていると考え、二光子相関係数と励起子数の関係を導くことができた。
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