研究課題
本研究はVUVからSXまでの広いエネルギー領域でマイクロフォーカス放射光を利用可能なあいちシンクロトロン光センターBL7Uにおいて、機能性発現メカニズム研究において重要な準粒子バンド構造を直接観測する高分解能角度分解光電子分光と実空間μmドメイン構造を元素選択して明らかにするマイクロイメージングを組み合わせることで、これまでほとんど明らかになっていない「微小領域の実空間表面構造が機能性と電子状態にどのような影響を与えるのか」を解明するVUVSXマイクロイメージング分光という新たな実験方法論を構築することを目的とする。目的を達成するために平成26年度は第一段階として環境整備を行なった。まず、光電子分光装置における超高真空用クライオポンプによる架台全体の振動を軽減することを目的としてクロイオポンプ用ゲートバルブ直上フランジおよびクライオポンプ支柱に防振ダンパの設置を行なった。また、試料回転機構排気用スクロールポンプからの振動を除去することを目的としてフレキシブルホースの取り回し最適化および防振おもりの設置を行なった。以上の対策により、室温測定における試料位置における目に見える振動はほぼ観測されない状態まで軽減することに成功した。更に、試料位置走査によるイメージング分光測定を実現するために必要なパルスモータ制御系の改良を行なった。具体的には、パルスモータ駆動用コントローラをLabVIEW制御用に更新し、試料位置制御用ソフトウェアの初期整備を行なった。一方で、ビームライン調整についてはアンジュレータ光の条件最適化の遅延が生じており、平成26年度は試料位置スポットサイズおよそHXV<150X100μm2程度までの達成度にとどまっている。アンジュレータ光条件の最適化については、平成27年度初頭シャットダウン後の早期に実現する予定である。
2: おおむね順調に進展している
平成26年度は光電子分光装置における防振対策に加え、平成27年度に予定していたマイクロイメージング分光用ソフトなどの整備を前倒しにすすめてきた。その結果、アンジュレータ光のビーム軌道などの条件最適化が加速器トラブルなどの原因によるビームライン整備の遅延の影響を極力軽減することができたと考えている。アンジュレータ光のビーム軌道の最適化についてはあいちシンクロトロン光センターユーザー利用シャットダウン後に実施予定であり、ビームライン再調整も合わせて5月末までには放射光フォーカス目標値 HXV = 80X30μm2の達成を目指す。一方で、分光系の測定試料の振動除去および計測系の整備については概ね順調に進んでいる。具体的には振動除去系の整備により室温測定時の試料位置における目に見える振動はほぼ観測されない状態にあり、パルスモータコントローラの更新により、イメージング分光に必要不可欠な試料位置の2次元位置制御用ソフト導入も初期整備は完了している。さらに、VUVSX-ARPESを用いた種々の強相関電子系化合物における準粒子バンド構造の直接観測についても進めている。具体的には、Sm→Y置換に伴いblack-golden相転移を示すSm1-xYxS系におけるARPES測定の結果、Y置換量3%においてブリルアンゾーン中で3%程度の大きさの小さな電子面について、そのフェルミ面形状を決定することに成功した。また、優れた熱電特性を示すことから注目されている擬一次元コバルト酸化物Ba3Co2O6(CO3)0.7において、Co 3d軌道に由来するフェルミ準位近傍のバンド構造の観測に成功し、EF-0.5 eVにおいてCoO6分子鎖間の相互作用の効果を示唆する擬二次元的な電子状態の異常が存在することを見出した。
本研究が目的とする、マイクロフォーカスVUVSX放射光による吸収端XAS/共鳴PES強度の実空間イメージングと高分解能ARPES (PES/XAS)を組み合わせた「VUVSXマイクロイメージング分光」を実現するためのエンドステーションおよびソフト環境については現状でほぼ導入が完了している。そのため、平成27年度は整備した装置によるテスト測定、ソフト環境の向上を更に進めていく必要がある。具体的には、十字タングステンワイヤーを用いた位置分解能の見積もりおよび表面不均一系Sm1-xYxSにおけるドメイン構造サイズと電子状態の関係の研究を前期に行う。また、上記の性能評価と並行して、試料位置~光電子強度/試料電流~励起エネルギー(分光系)を同期させた半自動測定を実現するためのソフト開発およびパラメタ取得を行う。特にμXASについては、光電子分光に比べて比較的プローブ深さが深いことから、あいちSRユーザーによるリチウムイオン電池、炭素繊維材料、ナノ粒子系など表面清浄化が困難な系の分析において有効な手法であると考えられることから、ユーザー利用に活用してもらうことで大局的な視野から電子状態と表面構造の関連について情報を得ることが可能であると期待している。更に、後期には微小試料表面を走査することにより光照射損傷の影響を軽減できる利点を活かした走査型μARPES法を擬一次元有機導体(TMTCF)2X (C = S, Se; X = ClO4, PF6, AsF6, SbF6) において系統的に行い、擬一次元有機導体における本質的な機能性発現メカニズムの実験解明へと展開させる予定である。
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