研究課題/領域番号 |
26610088
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
大畠 悟郎 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (10464653)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 光物性 / 量子光学 / 励起子 / 励起子分子 / 量子もつれ / ポンプ&プローブ / 光学非線形性 / 量子ダイナミクス |
研究実績の概要 |
本研究では,単一光子に対する量子状態の変化(量子ダイナミクス)を直接観測する新しい分光測定手法である「量子光ポンプ・プローブ分光法」を提案し,これを実験的に実現することを目的としている. 平成26年度では以下に示す主に2つの結果を得た. まず,申請者らが考案した非同軸2色励起法によって,試料面直方向に同軸状に量子もつれ光子対ビームを生成することに成功している.特に得られた光については,時間相関測定の結果から光子対として精度よく放出していることを確認し,また波長分解の相関測定から周波数(エネルギー)相関,正確には反相関を有した光子対が発生していることを明らかにした.励起子分子から発生した光子対がこのような性質を持つことについて,実験的に明らかにしたのは今回の結果が初めてである. 一方で,古典光源(微弱なレーザー光)を用いた,励起子分子に対するポンプ・プローブ分光測定の予備実験についても,実験を進めた.特に,2ビームを用いた非線形偏光変化と2光子吸収についての実験系を構築し,微弱な励起強度におけるそれらの応答を観測した.その結果,それぞれの測定について,約10μWの微弱な光強度での観測に成功した. 以上の成果は,量子光ポンプ・プローブ分光法の実験を実現するにあたり,不可欠な手順である.またこの技術的進展を受けて,次年度はこれらを組み合わせて単一光子・光子対での観測に繋げる事ができると考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度における,研究の進捗状況は,当初の研究計画に対して概ね計画通り達成されていると考えられる.計画では,主に初年度に2つの実験系構築とその検証を目標にしていた. まず一つ目は,「従来型のポンプ&プローブ分光測定による検証」である.これについては,古典光源にあたる微弱な光強度のレーザー光パルスによってCuCl単結晶中の励起子分子の非線形応答を観測するものである.今回新たに導入したシェイカーを利用したファストスキャンシステムを構築し,2ビームを用いた非線形偏光変化と2光子吸収について,それらの応答を観測した.結果として,それぞれの測定について,約10μW程度の微弱な光強度での観測に成功した.これらの結果から,目標であった検証実験はほぼ達成できたと考えられる. 一方で,もう一つの目標である「量子光ポンプ&プローブ測定系の立ち上げと性能確認」については,まず量子もつれ光源の構築とその性能を検証した.今回新たに,同軸状に量子もつれビームを発生させることに成功した.この方式は,発生した後に光源として取り扱いやすい空間モードを有していることから,本研究には不可欠の技術的進歩が得られたと考えている.また,得られた量子もつれ光子の周波数相関についても今回はじめて明らかにした.目標では,得られた量子もつれ光子をさらに試料に照射し直す予定であったが,ここまでは到達していない.そのため,完全には目標通り進んではいないが,次年度に移行しても無理の生じない事と考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,以上挙げた2つの実験系を組み合わせて,「量子光ポンプ・プローブ分光法」の実験を行なう. 従来型のポンプ&プローブ分光測定による検証では,約10μW程度の微弱な光強度での非線形応答の観測が出来たが,一方で更に技術的に精度向上が可能である事が判明しているため,これら測定精度の向上を目指す. また,得られている量子もつれ光子について,それらをプローブ光源として,試料に再度照射してその応答を測定する.プローブ光の偏光変化や強度変化などの時間変化・応答が重要であり測定するが,最終的にはそれらの密度行列の時間変化を直接測定する.これにより,光子の量子状態とその変化を明らかにすることが可能になる.また,それは光子が物質中でどの様に量子的に相互作用しているかという量子ダイナミクスを明らかにできることにも対応することである. 本実験では,古典的な(従来型の)実験と同様に,2ビームでの非線形偏光変化と2光子吸収の二通りの実験が考えられるため,両方確認することが最終目標であり,それらを予定している.これら2つの測定はそれぞれ違う光応答を測定することに対応しているため,双方ともに重要な研究課題であると考えられる.
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