本研究では,単一光子に対する量子状態の変化(量子ダイナミクス)を直接観測する新しい分光測定手法である「量子光ポンプ・プローブ分光法」を提案し,これを実験的に実現することを目的としている. 平成27年度では以下に示す主に2つの結果を得た. まず前年度に発生に成功した,励起子分子共鳴ハイパーパラメトリック散乱における量子もつれ光子対の同軸状ビームについて,量子状態の精密な測定を行った.得られた光子対は周波数の相関を有すると同時に偏光の相関も非常に強く現れていることが判明した.これにより,励起子分子から発生する光子対は,複数の物理量で量子もつれを有する状態(すなわちハイパー量子もつれ状態)となっていることを初めて実験的に明らかにした. またその一方で,古典光源(微弱なレーザー光)を用いた,励起子分子に対するポンプ・プローブ分光測定の測定も引き続き行い,プローブ光の波長に依存した非線形応答を明確に観測した.これらの変化は サブμW 程度の非常に微弱な光強度における結果が得られてはいるが,光子検出レベルで観測できるほどの精度は得られなかった.そこで,注目するポンプ&プローブのスキームを変えて,二光子吸収に対する偏光相関を測定した.その結果,励起子分子の吸収過程において,強い偏光相関を示すことが明らかとなった.これは,励起子分子が量子もつれ光子対と量子状態を保って一対一で吸収・放出のプロセスを行っている最初の証拠となるものである. 以上得られた結果は,固体中の非線形応答とりわけ励起子分子の2光子吸収・放出課程において非常に重要な知見を得られたのみならず,固体の非線形光学において量子もつれ状態を含む電子系に対する新しい分光手法を提供するものである.
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