研究課題/領域番号 |
26610090
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研究機関 | 独立行政法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
迫田 和彰 独立行政法人物質・材料研究機構, 先端フォトニクス材料ユニット, ユニット長 (90250513)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ディラックコーン / フォトニック結晶 / メタマテリアル / 量子井戸 / ソフトコロイド結晶 / 有効質量 |
研究実績の概要 |
ごく最近,申請者は,フォトニック結晶のブリルアンゾーンの中央にディラックコーンを実現する方法を発見した。ディラック点では実効的屈折率がゼロなので空間的な位相変化が無く,光伝搬に伴う波面の変形も無いという著しい性質がある。本研究は,申請者が独自に開発した解析的な手法に基づき,光波領域のディラックコーンを実現するフォトニック結晶の試料構造の提示とディラックコーンの高精度な検出法の考案を第1の目的とする。また,ゼロ屈折率による光散乱の低減や,バンドオフセットによる有効質量の制御等の新しい物理現象の提示を第2の目的とする。さらに,電子波やマグノン等の電磁モード以外の素励起への理論の拡張,特に,極端に小さな有効質量をもつ励起子ポラリトンによる高温ボーズ凝縮の可能性の追求を第3の目的とする。 この目的のために,平成26年度は,申請者が独自に開発した解析的な手法と数値計算を利用して,光波領域のディラックコーンを実現する試料構造の設計,入射電磁波とディラックコーンの結合性能の解析,および,顕微レーザー分光法による高精度なディラックコーンの検出法の考案を実施した。特に,スラブ型フォトニック結晶について,ディラックコーンを実現する具体的な試料構造を提示した。また,平面波で励起した際の伝搬方向の偏光依存性を解明し,ディラックコーンモードの検出法を提案した。さらに,回折損による有限のQ値を考慮した解析的な取扱いにより,数値解析で求まった複素固有周波数の波数依存性を再現することができた。研究成果は論文1報,招待講演4件などとして発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
(1) 光波領域試料の設計:2次元正方格子および3角格子フォトニック結晶スラブについて,吸収境界を導入した平面波展開法を用いて試料設計を行った。電磁モードのQ値を高くするために,エアブリッジ型試料を想定して分散曲線を算出し,試料構造の微調整によるΓ点のモードの偶然縮退を利用して,等方的なディラックコーンを実現する試料構造を見出した。また,Q値が有限の試料では固有周波数は複素数になることが,数値解析で確認できた。さらに,回折損による有限のQ値を考慮した解析的な取扱いにより,数値解析で求まった複素固有周波数の波数依存性を再現することができた。 (2) 入射電磁波との結合性能の解析:磁場の固有関数を基底にしたグリーン関数法を開発して,直線偏光した入射平面波による,フォトニック結晶スラブのディラックコーンモードの励起過程を定式化した。さらに,励起されたディラックコーンモードのポインティングベクトルを計算することにより,入射平面波との結合性能と伝搬方向の偏光依存性が解明できた。ソフトフォトニック結晶については,(1,1,1)方向の圧縮による試料構造の対称性の低下と固有周波数のシフトを考慮して,理論を定式化した。 (3) ディラックコーンの検出方法の考案:顕微レーザー分光法を用いて,上で解明した伝搬方向の偏光依存性を観測することで,ディラックコーンが検出できる。さらに,この依存性が,ディラックコーンを構成するモードの対称性毎に異なるので,偏光依存性の測定からモードの対称性を判別することができる。 以上から,研究は平成26年度の目標をすべて達成するとともに,有限のQ値の場合の解析解や,ディラックコーンを構成するモードの対称性の判別等,当初計画を超える研究成果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り,平成27年度は,ディラックコーンによって実現が期待される新現象の予測に研究の重点を移す。 (1) 光散乱の低減効果: ディラック点では実効的屈折率がゼロであることから,光伝搬に際して位相変化が無く,波面が変形しない。したがって,不純物等による光散乱が生じないと予想される。グリーン関数法による摂動計算を利用して,局在散乱中心による散乱振幅を入射光の周波数の関数として算出する手法を開発し,実効的屈折率と散乱確率の関係を明らかにする。 (2) 有効質量の制御: C4v対称な試料に関する予備的な検討から,縮退するべき2つのモードにわずかな周波数差(バンドオフセット)がある場合,分散曲線は波数の2次関数であるが,その有効質量がバンドオフセットに比例することが判明した。すなわち,バンドオフセットを調節することで,有効質量をいくらでも小さくできる。このことを他の対称性の試料構造についても確認するとともに,極端に小さな有効質量から期待される新現象について考察する。 (3) 他の素励起への理論の拡張: Γ点でのディラックコーンの生成が,ベクトル電磁場へのk・P摂動法の拡張を利用して証明できたことから類推して,同様のディラックコーンは他の素励起についても生成可能と推測できる。そこで,これを実際に確かめるとともに,Γ点で進行波であったり,極端に小さな有効質量をもったりすることが素励起物性に与える影響や新現象を考察する。 (4) 励起子ポラリトンのボーズ凝縮: 励起子とフォトンの複合系である励起子ポラリトンは励起子自体よりも有効質量が小さいことから,ボーズ凝縮の相転移温度が高い。上で述べたバンドオフセットによる有効質量の制御を利用すると,いっそう小さなポラリトンの有効質量が実現でき,高温ボーズ凝縮が期待できる。そのようなポラリトンの有効質量を実現する試料構造を考察する。
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