研究課題/領域番号 |
26610094
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
前田 京剛 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (70183605)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 多バンド超伝導体 / 超流体密度 / 複素伝導度 / 磁束フロー / 鉄カルコゲナイドエピタキシャル薄膜 / 臨界温度の上昇 / 超格子 / 相分離の抑制 |
研究実績の概要 |
昨年度の予期せぬ大きな成果である,相分離を抑制した,一連の組成の鉄カルコゲナイド薄膜の作製成功を受けて,本年度もその成果の発展・拡充に力点が置かれた。具体的には,(1)LaAlO3基板上に同様の製膜を行い,やはり相分離を抑制した一連の試料を得ることに成功した。このことから,この現象は特定の基板に対してのみ得られる現象ではなくより普遍的なものであることがわかった。(2)各組成試料での臨界磁場とその異方性,ホール効果の測定を弱磁場および強磁場のそれぞれで行い,超伝導特性の変化と臨界温度の不連続な変化が対応していることを確認した。(3)鉄カルコゲナイド面の距離を調節するために,FeSeとFeTeで超格子を作製し,様々な面間隔のFeSe試料を用意し,臨界温度を測定したところ,FeSe単体より高い臨界温度が得られたが,異方性の測定結果を総合的に判断すると,SeとTeの相互拡散が見られ,かつ,臨界温度の飛躍的上昇は観測されなかった。現在,FeTeに代わるスペーサー層となる物質を探索中である。(4)マイクロ波ブロードバンド法により,FeSe0.5Te0.5の試料において,複素交流伝導度にみられる超伝導揺らぎを,温度・周波数・試料サイズ(膜厚)の関数として詳細に測定し,この物質に関しては,超伝導揺らぎが3次元xy的であることを明らかにした。現在,他の組成の試料に対しても,同様の測定を継続中である。 また,鉄系超伝導体各種試料について,これまで測定した超流体密度の温度依存性およびフラックスフロー抵抗の磁場依存性を,多バンド超伝導体の観点から,理論モデルを建設し,定量的なフィッティングを行い,エネルギーギャップ構造を求めた。この方法は,多バンド超伝体のギャップ構造を論じる新しい方法論として位置付けることができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度も,昨年度の発見を受けて,その発展に優先的にグループのアクティビティーが注がれてしまい,当初の計画調書の内容との関連では,研究の進捗はやや遅れている。しかしながら,多バンド超伝導体のギャップ構造を明らかにするという大本の観点からは,上述のように,超流体密度の温度依存性と磁束フロー抵抗の磁場依存性の測定を組み合わせることで,超伝導ギャップ構造を定量的に議論できる,当初の計画にはなかった新しい方法を作り上げることができた。従って,本来の目的と照らし合わせると,遅ればかりではない。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は最終年度であるので,我々が鉄カルコゲナイド薄膜試料を提供する形で,テラヘルツ時間領域分光測定によるレゲットモードの検出を計画している(当初計画のラマン散乱よりもこちらのほうが,得られる情報が多いとの認識に至ったため。)これにより,現在生じている当初計画からの遅れを回復したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究を進めていく上で必要に応じて寒剤(液体ヘリウム・液体窒素)を使用したため当初の見込み額と執行額は異なった.
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次年度使用額の使用計画 |
研究計画に変更はなく、前年度の研究費を寒剤等に充当し当初予定通りの計画を進めていく。
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