(1)鉄カルコゲナイドFeSe1-xTex系薄膜をパルスレーザー蒸着法により,フッ化カルシウム基板,アルミン酸ランタン基板上に作製したところ,どちらの基板上に作製した薄膜においても,バルク結晶では不可避の相分離を抑制することに成功し,すべてのx値(ゼロから1まで)に対して単一相試料を得ることに成功した。これにより,この物質で,化学組成を連続的に変化させた系統的物性研究が初めて可能になった。臨界温度Tcはいずれの基板上でも,あるx(xcとする)のところで飛びを示し,そこで最高値をとることが分かった。x>xcでは,xの増加とともにTcは減少する。xcの値はアルミン酸ランタン基板上の薄膜のほうが大きく,したがって,フッ化カルシウム上の薄膜のほうが,Tcの最高値は大きい。(2)どちらの試料においてもxが小さいところでは電気抵抗に,構造相転移に対応する異常が現れるが,この温度は,xがxcに近づくにしたがって急激に減少し,x>xcの試料においては,構造相転移が見られない。したがって,Tcが飛ぶ組成xcと構造相転移が消える組成が等しいとことが分かった。このことから,Tcは,構造相転移の影響を大きく受け,構造相転移を抑制することができれば,さらに高いTcを得ることができるということを示唆している。(2)この研究の本来の目的であるレゲットモードに関連した情報を得るために,THz時間領域ポンププローブ分光研究(東大・理・島野グループとの共同研究)を開始した。現在,x=0,x=0.5でデータがとられており,両者で結果に大きな差異がみられている。これらの信号の解釈を現在行っているところである。したがって,研究期間が終了するころ,ようやく,本題に入ることができたという状況である。今後,許された条件下でこれらの研究をできる限り継続推進し,当初目的に迫りたい。
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