研究課題/領域番号 |
26610096
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
森 初果 東京大学, 物性研究所, 教授 (00334342)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | プロトン伝導 / 弱塩基ー弱酸共結晶 / イミダゾール / ジカルボン酸 / グロッタス機構 |
研究実績の概要 |
次世代のクリーンなエネルギー社会へ向けて、水素から電気エネルギーを取り出す燃料電池に注目が集まっている。現在プロトン伝導の電解質として、液漏れがなく、環境調和型である無水の有機固体プロトン電解質の研究が必要とされている。本課題では、 (1)室温で10-2 Scm-1以上の無水の純有機プロトン伝導体を設計、合成し、(2)その結晶構造、プロトン伝導性より伝導機構を明らかにし、(3)分子性物質の良さを生かした純有機無水の超プロトン伝導の開拓に挑戦することを目的としている。 本研究では、無水の純有機プロトン伝導体として、無水酸-塩基型のイミダゾールージカルボン酸[Im-(CH2)n(COOH)2 (n=0-8)]を対象とする。 本年度は、2次元水素結合ネットワークを持つイミダゾール・コハク酸(Im-Suc)、イミダゾール・グルタル酸(Im-Glu)、イミダゾール・スベリン酸(Im-Sub)の単結晶を作製し、その2次元面内および面間のプロトン伝導の異方性を測定した。その結果、面間方向においては、最高温度で、面内方向との異方性が各々2ケタ(Im-Suc)、1ケタ半(Im-Glu)、1ケタ(Im-Sub)であり、その順に面間距離が小さくなり、プロトン伝導性と相関していることが明らかとなった。また、面内においては、(Im-Sub)塩プロトン伝導性が等方的であったのに対し、(Im-Glu)塩は、と約2倍の異方性を観測した。 このプロトン伝導性と結晶構造と比較すると、伝導性の良い方向では、酸ー塩基ー酸ー塩基と並んでいることが示された。NMRの結果と合わせると、このプロトン伝導体では、酸から供給されるプロトンがキャリアとなり、イミダゾールの分子回転を駆動力として、酸と塩基間でプロトンを受け渡しをしており、キャリア生成とイミダゾールの運動を考慮した伝導パスの形成が重要であることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2次元水素結合ネットワークを持つイミダゾール・コハク酸(Im-Suc)、イミダゾール・グルタル酸(Im-Glu)、イミダゾール・スベリン酸(Im-Sub)の単結晶を作製し、その2次元面内および面間のプロトン伝導の異方性を測定した。 その結果、面間方向においては、プロトン伝導を測定できる最高温度で各々2ケタ(Im-Suc)、1ケタ半(Im-Glu)、1ケタ(Im-Sub)の面内方向との異方性があり、その順に面間距離が小さくなり、プロトン伝導性と相関していることが明らかとなった。また、面内においては、(Im-Sub)塩はプロトン伝導性が等方的であったのに対し、(Im-Glu)塩は、約2倍の異方性があった。 結晶構造と比較すると、伝導性の良い方向では、酸ー塩基ー酸ー塩基と並んでいることが示された。また、イミダゾール・コハク酸(Im-Suc)の固体NMRの測定によると、イミダゾール分子は、数百MHzで回転運動をしていることが明らかとなっている。双方を考えると、このプロトン伝導体では、酸から供給されるプロトンがキャリアとなり、イミダゾールの分子回転を駆動力として、酸と塩基間でプロトンを受け渡しをしており、キャリア生成とイミダゾールの運動を考慮した伝導パスの形成が重要であることが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
水を含まない有機プロトン伝導体であるイミダゾール・ジカルボン酸において、パウダーサンプルでなく、単結晶でのプロトン伝導の異方性を測定することにより、プロトン伝導が粒界でなく、物質本来の特性であることが明らかとなってきた。本年度は、2次元水素結合ネットワークを持つプロトン伝導体において、面間および面内のプロトン伝導の異方性を測定することにより、酸と塩基の分子配列の重要性について言及することができた。この無水プロトン伝導体の伝導機構および伝導性向上の指針を明らかにするために、1次元水素結合系と比較することにより、水素結合の次元性とプロトン伝導性との相関について調べる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
無水有機のプロトン伝導体について、単結晶を作製してプロトン伝導の異方性を測定し、粒界でなく、物質本来の伝導性であること、また分子運動と水素結合ネットワークを反映したプロトン伝導であることを2次元水素結合系で明らかにした。研究の途上で、偶然、新規な1次元水素結合系も得ることができたので、さらにプロトン伝導の機構の理解を深めるために、次元性とプロトン伝導の相関を明らかにすることとした。本年度は、これまで購入した消耗品(試薬、ガラス器具、エレクトロニクスパーツ)を用いて実験をすることが可能であったが、試薬やパーツは消化し、ガラス器具は一部破損したので、来年度は新たに購入して実験をすることが必要となる。
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次年度使用額の使用計画 |
偶然得られた、新規な1次元水素結合系の結晶構造、プロトン伝導の温度依存性、異方性を調べるために、試薬、ガラス器具、エレクトロニクスパーツ、寒剤など消耗品を購入する予定である。
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