(1) τ型と呼ばれる分子性有機導体においては、大きなゼーベック効果が得られる。このゼーベック効果の起源を調べるため、第一原理バンド計算を行い、ゼーベック係数を計算した。その結果、実験結果をほぼ定量的に再現する結果を得た。上向きと下向きのプリン型バンドが小さなギャップを介して接近しているバンド構造をしているため、ゼーベック係数は特異的な温度依存性を示すが、その温度依存性が分子の形状・大きさによって変わる様子まで再現することに成功した。
(2)プリン型とそうでない場合のバンド形状を持つ簡単化された模型を用いて、電子系の熱伝導率まで含めて計算し、電子系のZTの比較を行った。プリン型の場合、温度勾配があると電子とホールの移動による電場が発生し、これが熱流を妨げることが、大きなWiedemann Franz則の破れにつながることがわかった。これにより、プリン型バンドは、ゼーベック係数と熱伝導率という二つの側面から熱電効果に有利であることがわかった。
(3)新規超伝導体であるLaOBiS2 系は、超伝導体としてのみならず、熱電物質としてのポテンシャルの高さを感じさせる実験結果が得られている。我々はこの物質について第一原理バンド計算から構築した模型を用いて、ゼーベック係数の計算を行った。その結果、実験結果をほぼ定量的に再現する結果を得た。これをもとに、現在、元素置換によるゼーベック効果増強の可能性を調べている。また、LaOBiS2 系はビスマスとカルコゲンを含んでいる点が、熱電物質として知られ、トポロジカル絶縁体としても注目を集めているBi2Te3と共通している。そこで、LaOBiS2 系のバンド構造のトポロジカルな性質についても調べはじめた。
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