研究実績の概要 |
原子価スキップ元素(Tl)をドープした新奇超伝導体(Pb1-xTlxTe)において提唱されている”Negative-U”と呼ばれる新しい超伝導機構の可能性を追究した。いくつかの組成x=0(母相),0.35at%(ドープ、非超伝導),1.0at%(ドープ、超伝導)の単結晶試料においてTe核の核磁気共鳴実験を、12テスラの高磁場、広い温度域に対して行った。その結果、ドーパントであるTl原子からの距離に依存して局所電子状態が大きく空間変化していることが、近隣に存在しているTeサイトのKnight shift測定およびNMR緩和率の実験からわかった。Tlをドープしてない母物質PbTeでは見られないため、この結果はTlドーパントの存在に由来することがわかった。さらに、電荷近藤効果に由来すると考えられている電気抵抗の上昇と対応するミクロな情報として、電子状態の動的性質を反映する1/T1T が10K以下の低温で異常に上昇していることが、超伝導の組成域の試料(x=1.0at%)のみで観測された。一方超伝導にならない組成域の試料(x=0,0.35at%)にはその異常は観測されなかった。マクロ測定と理論から電荷近藤効果と考えられてきた本現象をミクロな視点からも本質的であることが裏付けられ、異常な揺らぎを伴う局所電子状態が超伝導を示す試料にのみ見られたことから超伝導との関連を示唆することができた。ドーパントの局在6s軌道の電子が、伝導電子と混成しながら、試料全体へ渡って広くコヒーレンスが発達していることが超伝導の出現条件と関連していると思われる。以上、ミクロな視点からTlからの距離に依存した局所電子状態と、電荷近藤効果に起因する動的な電子状態と超伝導の関係を示唆する新しいミクロな視点からの知見が得られた。
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