結晶カイラル秩序が別種の秩序と共存する系を対象として、外場による結晶カイラリティ制御の可能性を検証した。結晶カイラリティと強弾性秩序が共存するCa2Sr(C2H5CO2)6に着目し、一軸応力印加下におけるドメイン構造観察を行ったところ、強弾性ドメインスイッチングに伴う結晶カイラリティの反転を確認した(この現象は40年前に報告されていたが、根拠となる実験データは示されていなかった)。さらに、カイラリティ反転が強弾性ドメインスイッチにおける原子変位量の観点から説明可能であることを明らかにした。 物質探索の過程において、新規カイラル化合物群ABCu4P4O17(Aはアルカリ土類元素、Bは遷移金属元素)の開発に成功した。さらに、Aサイト元素の違いのみによって結晶中のカイラルドメインの形成様相が劇的に異なるという結果を得た。有機化学の分野で20年前に提案されたContinuous Chirality Measures法によりカイラリティ強度を計算したところ、Aサイト元素の違いに起因するカイラリティ強度とドメイン出現頻度に明確な相関があることを見出した。このことは、有機化学の分野で先んじて導入された「定量的カイラリティ強度」が、固体結晶を扱う物性科学においても重要な概念となり得ることを示す萌芽的成果である。 以上のように本研究は、結晶カイラリティが別種の強的秩序と交差相関を持つ特殊な場合には、その強的秩序ドメインの外場スイッチを介した結晶カイラリティ制御が可能であることを示した。交差相関を持たない一般の場合におけるカイラリティ制御は今後の課題である。また、新規開発したカイラル化合物群の研究により、物性科学においても定量的カイラリティ強度が重要な概念になり得ることを示した。今後は、新たに採択された基盤Cにおいて、定量的カイラリティ強度を軸としたカイラリティ制御の研究、および、カイラル物質の理解に関する研究を推進していく。
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