研究課題/領域番号 |
26610104
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
太田 仁 神戸大学, 自然科学系先端融合研究環分子フォトサイエンス研究センター, 教授 (70194173)
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研究分担者 |
大道 英二 神戸大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (00323634)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ESR / カンチレバー / タンパク質計測 / 高周波数 / 高感度 |
研究実績の概要 |
これまで市販の原子間力顕微鏡用のカンチレバーを用い,そのたわみをカンチレバー根元のピエゾ抵抗の変化として取り出し,磁性体の電子スピン共鳴(ESR)測定に適用して我々は実績を上げて来た。本研究では,さらに高感度測定を可能にするためESRに伴うカンチレバーの微小変位を検出する方法として光てこ法のひとつである波長可変レーザーを用いたFabry-Perot干渉計方式を採用することとした。この方式ではFabry-Perotキャビティの共振器長の最適化が必要だが、ここでは波長可変レーザーを採用したため,可動部分がない、装置の小型化,低ドリフトという利点をえることができた。本年度は最終的な目標スペックである最高磁場 15␣T,最高周波数 500GHzにはまだ達していないが,測定装置の高感度化が進められたので,最終的な目標である生体タンパク質の高周波ESRの信号検出を試みた。 具体的には,生体金属タンパク質のひとつであるミオグロビンを取り上げた。このタンパク質は筋肉中の酸素貯蔵に関する働きを担い、Feイオンが活性中心として機能することが知られており,市販もされていることから入手が容易でテスト材料としては最適である。一方,ミオグロビンは非常に大きな分子量17000を持つため、スピン濃度が薄く、通常の透過法高周波ESR測定法では信号検出が非常に困難である。本研究では100ミクロン程度の大きさしかないカンチレバーへの試料搭載方法などの検討を重ね、初めて100 ng程度の微量凍結試料について80-105 GHzの領域でのESR信号検出に成功した。そのスピン感度としては10^5 spins/Gに達し,この80-105 GHzの領域では目標スペックの10^6 spins/Gを上回る結果を得た。次の目標は,この感度を500GHzへ拡張することである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,これまで市販の原子間力顕微鏡用のカンチレバーを用いたESR測定から,光てこ法のひとつである波長可変レーザーを用いたFabry-Perot干渉計方式を採用したESR測定に移行することにより高感度化を進めた。この新しい測定方式で,当初手動でカンチレバーと光ファイバーの位置合わせをおこなったため,手順が煩雑であり、作業効率が低いという問題があった。この問題を解決するためアラインメントチップと呼ばれる位置合わせの治具を初めて導入した。その結果,カンチレバーの試料セット時間を約1/4に短縮することに成功したので,高感度化のための他の条件だしを効率的に進められ,高感度化に寄与した。そして,スピン感度10^5 spins/Gを80-105 GHzの領域で達成した。この値は目標スペックの10^6 spins/Gを上回るものである。このことから,研究が当初の計画どおり順調に進展しているということができる。 さらに,この結果を受けて微量なミオグロビンタンパク質溶液試料のESR測定にも挑戦した。測定を行ったミオグロビン試料ではFeイオンが活性中心となっており、価数や配位子によってさまざまな信号が得られる。特に価数をコントロールできる溶液中での測定は重要である。また,価数の変化はFeサイトの電子状態の変化に対応するが,その電子状態を調べる場合,高周波ESR測定が極めて有効なことがわかっており、その高感度化は重要課題ということができる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は当初の目的通りカンチレバーを用いることでミリ波領域における高感度化を行い,超微量生体タンパク質のESR信号検出に成功した。今後、活性中心である鉄イオンの電子状態を詳細に解析するには複数の光源を用いた多周波数ESRによる分光的な測定が有効である。H26年度は実験に用いた磁石の制約から最大でも105 GHzまでの測定しか行えなかったが、今後は15T超伝導磁石と組み合わせることで更なる、高周波域での測定を可能にする。そのため、本年度は新たに15T超伝導磁石用のプローブヘッドを作成し、数十~数百GHzにわたる広い周波数領域でのESR信号検出を目指す。光源としては300 GHzまではガン発振器、300 GHz以上では後進行波管を用いて測定を行う。これによりゼロ磁場ギャップをもつスピン系のESR観測が可能になり、低磁場、低周波ESRでは得ることができない詳細な解析が可能になる。本年度は周波数領域を拡張し,これまでの記録367GHzをこえることを目指す。また,昨年度に引き続きミオグロビン試料の測定を行うが、本年度は配位子や価数を系統的に変える手法を用いて、様々な電子状態における鉄イオンの信号を検出する。これによりミオグロビンの局所環境を反映したESRスペクトルを取得し、カンチレバー検出ESR測定法の実験、解析手法を確立する。
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