研究課題/領域番号 |
26610105
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
矢野 英雄 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 准教授 (70231652)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 低温物性 / 超流体 / 量子渦 / 超流動流 |
研究実績の概要 |
本研究では、超流動ヘリウムの流れを駆動するポンプを開発する。最近の我々の研究から、粘性のない超流動ヘリウムでも、量子渦を付着させた物体を動かすことで超流動の流れをつくることがわかってきた。このアイデアをもとに、量子渦を付着させた物体を回転させ、超流動ヘリウムに回転流を誘起し、回転流から流れを取り出すポンプの開発を目的とする。これまでの主な研究実績は以下のとおりである。 1.超流動ヘリウムの回転流を駆動するモーターに、摩擦による発熱が小さく、また摩耗が少ないブラシレスモーターを採用した。モーター駆動には回転を検出するセンサーを必要とし、駆動制御回路も複雑になるが、回転の制御が容易に行える利点がある。 2.回転を検出する磁気センサー(ホール素子)、回転軸をサポートするベアリング、コイル磁芯のフェライトについて、低温での性能を調べた。通常の磁気センサーは低温で著しく性能が落ちるが、GaAs系ホール素子は低温でも動作することを確認した。またすべり軸受によるベアリングは低温でも動作することを確かめた。低温でもヒステリシスの小さいフェライトをコイルの磁芯に使用した。以上の工夫により、絶対温度2 K以下で動作するモーターの開発に成功した。 3.モーターに6枚羽根のブレードを取り付け、超流動ヘリウム中でブレードを回転させることにより、ブレードから離れた位置でも超流動ヘリウム回転流を駆動することに成功した。この結果は、ブレードに付着する量子渦がブレードの回転によって伸長し、マクロな回転流を駆動させることを示している。 4.ブレードで駆動する回転流から、パイプを通して小さな回転流を取り出すことに成功した。この結果は、パイプの中で超流動ヘリウムの流れを駆動できることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画どおり低温で作動するモーターの開発・製作をおこない、低温でのモーター駆動における問題点と解決方法について検討し、低温でのモーターの回転に成功した。この低温モーターを用いて、回転流が駆動できることを確認した。さらにパイプを用いて、回転流から小さな回転流を取り出すことに成功した。これらは計画どおりの成果である。しかし研究に必要な液体ヘリウムの供給が、ヘリウム液化装置の故障のため不安定で、本研究の目標である超流動ヘリウム定常流の取り出しまでには至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で、低温におけるモーター駆動の問題点と解決方法がわかってきた。この結果を踏まえ、次の点を改良し研究を推進する。 1.低回転で動作するモーター駆動回路の開発 これまでに低温で動作するモーターの開発に成功した。しかし、回転数は1秒間あたり2回転以上に限定され、低回転の制御が難しく、また一旦回転を止めると回転の駆動が困難になるなどの問題点がある。回転子の固定方法を改良し、安定動作するモーターを開発するとともに、低回転の動作をめざす。 2.超流動ヘリウム回転流からの定常流の取り出し 超流動ヘリウムの回転流を駆動することに成功した。また回転流からパイプを通して小さな回転流を取り出すことに成功した。これらの成果は、超流動ヘリウム定常流を取り出す技術的な問題を解決する方法を与え、これらの成果を踏まえ超流動ヘリウム定常流の駆動をめざす。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では、低温を得る寒剤として液体ヘリウムを使用する。液体ヘリウムは、大阪市立大学理学部ヘリウム液化施設より供給(有償)を受けるが、この施設のヘリウム液化装置が故障し、長期間液体ヘリウムの供給がストップした。このため、研究に必要な液体ヘリウムを十分得ることができず、計画した額を使用することができなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
モーター回転子とその駆動回路や定常流を取り出す流路の製作に、物品費を使用する。製作後に室温および低温での動作テストをおこなうが、これらのテストに寒剤(液体窒素、液体ヘリウム)を使用する。動作テストの完了後に超流動回転流と定常流の取り出しをめざし、この実験にも寒剤を必要とする。これら寒剤も物品費で購入する。開発にあたっての研究打ち合わせと、成果報告に旅費を使用する。また成果を学術雑誌へ投稿するための投稿費も使用する。
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