研究課題/領域番号 |
26610107
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研究機関 | 独立行政法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
内橋 隆 独立行政法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, MANA研究者 (90354331)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 超伝導材料・素子 / 表面・界面物性 / 物性実験 |
研究実績の概要 |
鉄系超伝導体は銅酸化物系超伝導体に次いで高い転移温度(Tc)を有する物質群であり、その研究は極めて重要である。従来はバルク試料を中心に研究が行われてきたが、ごく最近にMBE成長で作製されたFeS原子層超薄膜において非常に高いTc (~65K)を示唆する結果が報告され、大きく注目されている。しかし、このような清浄な超薄膜は大気暴露などによって容易に変質するため、技術的な困難から電気伝導測定による超伝導転移の直接的な検証には成功していない。本研究では、我々が独自に開発してきた超高真空環境における電気伝導測定技術を駆使して、MBE成長によって得られた超薄膜鉄系超伝導体の相転移を直接に観測することを目的とする。これまでに研究協力者のグループから、FeSe超薄膜試料の提供を受け、試料調製および観測方法について予備的な実験を行った。試料は清浄なSrTiO3基板の上に単ユニットセル膜厚FeSeをMBE成長させ、アモルファスセレンの保護層をつけたものである。試料を超高真空チャンバーに導入した後、約430℃で20時間アニールすることでアモルファスセレン層を取り除いた。試料表面を走査トンネル顕微鏡によって観測したところ、パッチ上の多数の小さなドメインが観測された。これは一様な超薄膜が形成されていないことを示す。また、超高真空環境のその場で電気伝導測定を行ったところ、抵抗は絶縁体的な振る舞いを示した。これはFeSe層が連続的に繋がっておらず、基板の電気伝導のみを観測しているためだと考えられる。これらの結果は、FeSeの成長段階で問題が発生している可能性を示唆しており、現在原因を究明中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
保護層をつけた試料を大気中に取り出して搬送した後に、アニールによって保護層を取り除くことで、試料作製時の清浄な試料表面に近い状態を再現することができた。一方、電気伝導測定では絶縁体的な振る舞いしか観測されておらず、目的とした超伝導転移の観測は実現していない。
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今後の研究の推進方策 |
試料作製時に連続的で一様なFeSe層が成長しない問題を解決する。また、これまでは電気伝導測定用に絶縁性の高いSrTiO3基板を用いていたが、ドーピングにより抵抗値を十分に下げたSrTiO3基板も用いる。保護層を取り除いた後に、超高真空極低温走査トンネル顕微鏡を用いて微分コンダクタンススペクトル測定(STS)を行うことで、超伝導ギャップの観測を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究協力者から提供された単ユニットセルFeSe超薄膜の成長に問題があり、計画していた極低温領域での電気伝導測定を十分に行うことができなかったため。測定には液体ヘリウムを使用するため、その分の物品費が減少した。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度において、試料調製の問題を解決した後、極低温領域での電気伝導測定を行うため、液体ヘリウムを購入する。また、低温走査トンネル顕微鏡を用いて試料の測定も行う。これにも、液体ヘリウムの使用が必要である。
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