研究課題/領域番号 |
26610110
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
川勝 年洋 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (20214596)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 粘弾性 / 高分子ネットワーク / 流体粒子 / 振動現象 |
研究実績の概要 |
振動場と弾性場のカップリングを持つ系のシミュレーション手法として、架橋等のネットワーク構造を持つ高分子系に対して、従来の自己無撞着場理論を拡張する定式化を行った。ここでは、架橋点によりつながっている高分子鎖のネットワーク構造の中の1本の代表鎖に着目し、それ以外の鎖との間に化学結合がある状態を、分岐構造を持つ高分子の自己無撞着場理論の手法を用いて表現した。さらに、このような分岐高分子を平均場近似を用いることで一体近似することで、数値計算の拘束かを計った。また、この自己無撞着場理論のモデル化と平行して、架橋高分子系の粗視化分子モデルを構築し、モンテカルロシミュレーションにより平衡状態のネットワーク構造の構築を行った。 さらに、このようなネットワーク構造の流動特性をシミュレートするために、従来から流体力学の数値解析手法として用いられてきた流体粒子法に対して以下の拡張を行った。1)物理ゲル等の一時ネットワーク構造を持つ粘弾性流体を対象として、ゲルの膨潤/収縮過程をシミュレートできるように、流体粒子のサイズを可変とするように拡張した。2)ネットワークの弾性効果を流体粒子に取り入れた。3)外部からの振動的な応力場や化学反応による内的な振動現象とのカップリングを取り入れた。 これらのシミュレーション手法を組み合わせることにより、振動的な外力による変形や化学反応のような振動場の中に置かれた高分子粘弾性体の動的な挙動をシミュレートする方法論の基礎を開発することに成功したと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
申請書の研究目的に記載した研究目標の内で「流体粒子法」の拡張に関しては、サイズ可変の流体粒子の系への変更および、振動現象とのカップリングによるゲルの膨潤・収縮をシミュレートすることの出来る手法の開発に成功した。架橋反応をフォッカープランク方程式で表現する部分に関してはまだ未着手であるが、これに関しては同等の効果を有する自己無撞着場理論の定式化を行うことができた。 一方で、当初予定の理論的な定式化に関して一部未着手の部分(化学結合の生成・消滅をフォッカープランク方程式を用いて記述する部分)があるため、本年度は大規模計算を実行するよりも理論の定式化を優先することを選択した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終年度となる平成27年度には、前年度に開発したプログラムを並列化することで大規模なシミュレーションを行う。このためにワークステーションを購入する。ターゲットとなる系としては、まずは体積相転移を起こさないゲル・ネットワークが外的な振変形あるいは化学振動とカップルしたときの振る舞いを調べ、先行研究との比較を行う。次に、体積相転移を持つゲルの振動とのカップリングの結果を詳細に調べ、どのようなパラメタの時にゲルの力学特性がもっとも有効になるかを明らかにすると共に、モデルパラメタの変化によって最終的なゲル全体の振動現象がどのような影響を受けるのかを定性的に明らかにする。最後に、化学ゲルを物理ゲルに取り替えることで、ネットワークの組み替えを許す。このような系は、粘着剤や流動性の弾性物質として利用可能であり、機能性材料のモデル構築に応用可能であると考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度には理論の定式化にの一部に問題が生じ、研究計画に未着手の部分が生じた。このため、平成26年度はその問題解決に専念することとし、当初予定していたクラスタマシンの購入を翌年度に持ち越すことつぃた。このために平成26年度の予算額に約100万円の未使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成26年度に生じた理論的な問題の解決はほぼ目処が立っているので、平成27年度には、平成26年度に予定していたクラスタマシンの購入を行い、大規模シミュレーションを実行することで研究計画の遅れを取り戻す。
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