生体の運動を模したソフトマター系のモデルとして、架橋構造を持つ高分子ネットワークのミクロな構造や粘弾性特性を、分子モデルおよび場のモデルを用いて表現し、化学反応による内的な自励振動や外部から印加した変形・流動によって引き起こされる架橋高分子の変形挙動を分子シミュレーション、自己無撞着場理論によるシミュレーションおよび流体粒子シミュレーションを用いて解析した。 架橋高分子を弾性体として流体粒子上に配置し、ここに自励振動を起こす化学反応のモデルを埋め込むことで、架橋高分子の体積相転移と化学振動とのカップリングによる架橋高分子の振動変形挙動をシミュレートする方法論を確立し、シミュレーションプログラムを開発した。シミュレーションの結果、化学振動が伝播することによる架橋高分子の脈動運動をよく再現でき、種々の効果を取り入れた実現象の再現が可能であることが確認できた。 また、生体繊維を構成する高分子を対象として、実際の分子構造の情報から架橋構造を作成し、この架橋構造に対して粗視化分子動力学法による分子シミュレーションを実施した。このシミュレーションから、生体繊維の架橋構造の弾性特性を明らかにすることができ、実験との対応も確認した。また、同じ系に対して自己無撞着場理論を用いた定式化も行ったが、自己無撞着場の計算の際の繰り返し計算に不安定が生じ、架橋高分子のネットワーク構造とその粘弾性特性を再現することには成功しなかった。
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