研究課題/領域番号 |
26610112
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研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
永井 健 北陸先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 助教 (40518932)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | アクティブマター / ソフトマター |
研究実績の概要 |
リポソームと呼ばれる脂質二重膜の小胞は柔らかい。そのため、リポソーム周りの浸透圧調整や光感受性界面活性剤を用いて形状の制御ができる。リポソームを使えば、形状制御可能な自走粒子を大量に作ることが出来ると期待できる。そこで、昨年度は交流電場を用いたリポソームの自発運動の実現を試み、下記の2つの方法でリポソームが自発運動することを見出した。 リポソームを含む水溶液を2枚のITOガラスではさみ、ITOガラス間に数百ヘルツの交流電場を加えるとリポソーム周りに電場の方向を中心に円対称な電気浸透流が生じる。リポソームに脂質塊を付着させると誘電率分布が非対称になるため、リポソーム周りに非対称な電気浸透流が生じる。観察セルのITOガラスを高分子でコーティングするとリポソームの吸着が阻害でき、非対称な流れ場によりリポソームが電場に垂直な平面上を自発運動することを見出した。リポソームが運動する平面には特定の方向はなく一様であるため、リポソームの運動方向はゆらぎ、徐々に変化する。 飽和脂質(DPPC)と不飽和脂質(DOPC)の混合物からリポソームを作ると室温でゲル相と液晶相の二相がリポソーム上にできる。この二相の間には線張力が働くため、面積が小さい相が出っ張ってバディングを作る。この相分離したリポソームを含む溶液に交流電場に加えたときも形状の非対称性に起因する非対称な流れ場が生じ、リポソームが自発運動することを見出した。この場合もリポソームの運動方向に特定の方向はなく、徐々に変化する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画で用いる予定であったCentrifuge-based Droplet Shooting Device (CDSD)を用いて作ったゲルは移動速度が遅く、計画遂行が困難であることがわかった。そこで、形状制御が容易なリポソームを用いた研究計画に変更した。年度の初めはリポソームの自発運動に関してはほとんど知見がない状態ではあったものの、年度中に交流電場による自発運動を実現し、自発運動を起こすために必要な条件も明らかになってきた。研究代表者の所属研究室はリポソーム形状の光制御について多くの経験があり、リポソーム作成法やリポソーム上のコロイド制御に関しても多くの知見を有する。これらの知見は下の欄にあるように今後の研究推進と大いに関係しており、今後は高い進捗速度で研究できると考えられる。そのため、残り1年の研究期間で研究目標の達成は可能であると考えている。 研究計画を変更したため、当初の研究期間では研究目標を達成できなかったものの、現所属研究室の知見を用いて残り1年で研究目標の達成が可能な見込みであるため「概ね順調に進展している」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
今後はリポソームの形状と運動の関係性を明らかにする。そのために飽和脂質と不飽和脂質を共に含み、表面上で相分離を起こすリポソームを用いた実験を行う。リポソーム周りの浸透圧の制御や脂質濃度の制御によってリポソーム形状を変化させ、交流電場による自発運動の依存性を調べる。また、昨年度に出願した特許に含まれるコロイド吸着技術を用いてチタン酸バリウムや二酸化チタンなどの高誘電率のコロイドをリポソームに吸着させ、自発運動の依存性を調べる。アビジン・ビオチン結合や脂質膜の相に依存したコロイド吸着依存性を利用し、特異的にコロイドを吸着させることで、特定の対称性を持った誘電率分布を実現できると考えている。リポソーム運動やリポソーム同士の相互作用のコロイド分布依存性をしらべ、コロイド分布を通じた運動の制御に繋げる。 上段落の単体のリポソームの運動に対する研究と同時に自走リポソームの集団秩序を実現するため、同脂質組成で同じ大きさのリポソームを多量に作り、運動を観察する。このために遠心力による油中水滴の脂質膜を通過でリポソームを作る方法を用いる。この方法では研究に用いる予定であったCDSDと同様の装置を用いる。そのため、リポソームの多量作成技術の習得には多くの時間が必要ではないと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画で用いる予定であったCentrifuge-based Droplet Shooting Device (CDSD)を用いると様々な形状のゲルが作成できるが、ゲル周りに電気浸透流がほとんど起きないため、交流電場によるゲルの自発運動の速度が小さい。そのため、ブラウン運動などのゆらぎの影響が大きく、計画遂行が困難であることがわかった。そこで、昨年度に形状制御が容易なリポソームを用いた研究計画に変更した。研究計画変更時にリポソームの自発運動に関する知見がほとんどない状態であったため、昨年度だけでは研究目標の達成は困難であり本年度まで延長する必要があった。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度の直接経費は主にリポソームの作成の用いるリン脂質やクロロホルムなどの試薬購入に用いる。観察装置やリポソーム作成に必要な交流電源などは代表者の所属研究室に揃っており、試薬があれば実験を行うことが出来る。今後の計画には数値シミュレーションも含まれている。数値シミュレーションは代表者の所属大学が所有する共用サーバで行う予定である。そのため、試薬以外には経費を使用しない予定である。
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