研究課題/領域番号 |
26610115
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
佐々 真一 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (30235238)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ガラス / カオス / 統計力学 / 乱流 |
研究実績の概要 |
不規則な配置のまま空間並進対称性を破る「乱流結晶」の例を構築する課題については、カオス性とフラストレーションをうまく融合させる方針で模型を構成した。具体的には、3次元立方格子において各サイトに実数変数を定義し、それぞれの辺の向きについてカオス写像で値を変換したものに近づくような相互作用を入れる。これにより、2次元以上では自然にフラストレーションが発生する。もし、フラストレーションの解消が空間的に局在した形で生じるなら、それ以外の部分はカオス写像による不規則パタンになるし、フラストレーションの解消が周期的に実現されることはない。ただし、フラストレーションの解消が系全体で規則正しくなるように生じるなら、この予想は成り立たなくなる。 実際にこの模型の数値実験を行うと、潜熱のでない熱力学転移を示すこと、および、秩序相で規則性がないことを示唆しており、有望な模型だと思われる。ただし、現時点では予想にとどまっており、確定的な答えにはなっていない。 また、乱流結晶と密接に関係するものとして、不規則な時間発展のまま時間並進対称性を破る相の探索も行なった。ゆらぐ媒質中のブラウン運動の軌跡の統計分布がランダムポテンシャル中の鎖状高分子の平衡統計分布が等価であることにもとづく結果である。乱流結晶の「不規則な空間秩序」に対する、「不規則な時間秩序」であり、これまでのカオス、確率過程、集団運動とは異なるクラスのダイナミクスを提示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
有望な模型を提案したことは有意義な進展だと考えている。しかしながら、まだ、サイズが8x8x8の小さい系の数値実験しかできておらず、予備的な結果というべき段階である。このままサイズを少しづづ大きくしても限界はすぐにくるので、既に出版した論文の結果を超えることはできない。理論的に証明する方向性にも取り組んだが、これは明快な結果を得るに至らなかった。そのため、論文として公表に至っていない。従って、乱流結晶の模型探索そのものからすれば、やや不満な状況にある。 その一方、乱流結晶の時間版に相当する「不規則な時間秩序」を示す模型の提案は当初に予期しなかった展開である。これは理論的な裏付けも数値的な裏付けも十分にとれている。学問的にも重要な意義をもち、大きな突破とみなすことができると評価している。現在、論文投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
現在、候補になっている模型について、サイズの大きな数値実験を実行する。少しづつサイズを大きくする方針は可能だが、すぐに限界に到達する。MPIを使えば、サイズを16x16x16まで大きくできるという評価は得られており、プログラムをMPI化する方針で臨みたい。 理論的には、「サイズLでのエネルギー最低配置のエネルギー密度より、サイズ2Lでのエネルギー最低配置のエネルギー密度が小さくなること、および、その最低配置はサイズとともに不規則に変わっていくこと」を示すのが第一歩である。これはパズルのような問題であり、解けるときにはすぐに解けると思われるが、解けないときには手も足もでない。同じ考え方にたるが、もっと理論的に取扱いやすい模型を再考することも考える。 「不規則な時間秩序」発生の機構を抽出することで、「不規則な空間秩序」構成へのヒントを探る。「不規則な時間秩序」を示す模型も現時点でまだ一つしかなく、そのクラスの理解を深めるためにも他の模型を得ることが不可欠である。また、時間と空間の違いはあるものの、両者が深く関係すると期待するのはもっともなので、その関係を意識しながら研究をすすめる。
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