研究課題/領域番号 |
26610119
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
小紫 誠子 日本大学, 理工学部, 准教授 (90318361)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 数値シミュレーション / 超臨界熱水 / 熱水噴出孔 / 非圧縮流体 / 計算スキーム / 上流差分法 / 超臨界状態 |
研究実績の概要 |
平成26年度は,深海の高圧下で海底熱水噴出孔から噴出する高温の超臨界熱水の噴出流を数値的に扱うより現実に近いモデルを構築し,3次元計算を実行した. このモデルでは,超臨界状態で噴出する熱水が周囲の低温の海水によって冷やされて液体に変化する際の潜熱を考慮し,温度ではなくエンタルピーの変化をエネルギー方程式で扱う.流れにおけるエンタルピーの変化が大きく,計算上の不安定さを伴うため,さらなる計算スキームの改良を行った.これは,tan関数のような関数を用いてエンタルピー値を物理空間から計算空間に変換した上で計算し,得られた計算値を逆変換することで物理空間でのエンタルピー値を得るというものである.このとき,計算空間で発生する計算時の不安定高周波振動を,物理空間への逆変換の際に縮小させることで,計算上の不安定要因を取り除き,安定な計算を可能としている.とくに本計算では,余計な関数値の計算による計算負荷を増大させないために,tan関数ではなく,導関数の性質が似た別の関数を作成して用いることで計算負荷を抑えた. 以上のようなモデルの改良と新しい計算スキームの採用により,高圧下で超臨界水が低温水中に噴出し液体への転移を伴いながら複雑な流れ場を構成するという現象を,高圧力一定の仮定の下で再現することができた.一定圧力の値を決定する水深や熱水温度,熱水噴出孔における流量等噴出条件など特定の条件下ではあるが,深海の未知の流体現象が,より現実に近いモデルを用いて数値シミュレーションにより再現された.そして,低温海水中に噴出する超臨界熱水の複雑な流れ場を捉えることができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成26年度は潜熱まで考慮したより現実に近い深海の超臨界熱水噴出流のモデルを開発したが,予想外に計算が不安定であり,以前に開発した高精度安定計算スキームでも対応できず急遽新しいスキームの開発を要した.また,3次元計算の実行には多くの計算機資源が必要であり並列計算は必須であるが,それまで利用していたGPUによる並列計算の拡張性において限界があった.これらの理由により,当初計画の海底下から熱水噴出流を捉えるモデルについては,数値実験のような作業が必要であったため,海底下に熱水プールを設置し毎時一定量の熱水がプールに流れ込み上部の噴出孔から噴出していくという簡単なモデルに留まっている.また,本数値モデルの検証対象とした,亜臨界状態の水の中に臨界温度以上の熱線を置いた熱対流の実験結果との比較については,この熱対流の再現そのものが非常に難易度の高い計算を要するものとなっており,計算上の新たな工夫が必要となっている.
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今後の研究の推進方策 |
高速高精度計算に向けて,それまでのGPUだけではなくマルチCPUとMPIによる並列化を進める.高速計算の実現ののち,数値モデルの検証を進める.26年度の研究計画の若干の遅れは想定内であり,27年度当初計画は余裕ある計画となっていることから,これらの遅れを取り戻すことは可能である.また,26年度においてより安定な高精度計算が可能な新たな計算スキームを開発しているため,今後予想される計算がより困難な条件下でも計算を進めることが可能である. 平成27年度は高性能計算機を導入する予定であり,これまでに開発した計算スキームを用い,より高速な並列計算スキームを完成させて,高精度高速計算に着手する.まず,数値モデルの検証と,熱水噴出孔より下の海底下の適切な流体力学的条件を探り,27年度の当初計画にある物質の移流拡散の解析に着手する.物質の移流拡散解析を通して,未知の深海の高温熱水噴出活動における流れの役割を解明する.
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