研究課題/領域番号 |
26610120
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研究機関 | 独立行政法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
宮崎 剛 独立行政法人物質・材料研究機構, 理論計算科学ユニット, グループリーダー (50354147)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 大規模第一原理計算 / 計算物理 / 生物物理 / 計算手法、プログラム開発 / イオンチャネル |
研究実績の概要 |
本研究では、我々のグループで開発している大規模第一原理計算プログラムCONQUESTを用いて、数万原子を含むような複雑生体系に対してオーダーN法第一原理計算手法を適用し、生体系に対する理論研究で通常用いられている古典力場の問題点を明らかにし、解決することを目標とする。今年度は、まず脂質2重層中に埋め込まれたイオンチャネルgramicidin Aの系の複数のスナップショット構造に対してセルフコンシステント第一原理計算を実現した。典型的な系はGramicidin Aを構成する552原子、脂質分子DMPCの64分子(7552原子)、水分子を2473分子(7419原子)含み、全体で15,523原子を含む巨大系である。この系に対する全原子第一原理計算は世界最大規模の第一原理計算と言える。計算の結果得られた水分子に働く力を古典力場と比較し、古典力場の精度が脂質分子の親水基との位置関係で大きく変わることを明らかにした。今後、ここで得られた第一原理計算による結果を再現する力場の構築を目指す。そのための手法の調査も行った。 また、当初の計画では次年度に取り組むことを予定していたオーダーN法第一原理分子動力学法の開発にも取り組んだ。まず、電子状態計算における収束回数を減らすために、前回のステップにおける密度行列を再利用する手法を導入した。さらに、密度行列の再利用の際に問題となるエネルギー散逸を解決する手法を導入した。オーダーN法の計算条件と分子動力学の精度の関係を明らかにし、効率的な分子動力学を実現するための準備を行った。その結果、実際に3万原子を越える系に対してオーダーN法第一原理分子動力学が高精度で実現可能であることを示した。また、水溶媒中のDNAに対する第一原理分子動力学のテスト計算も行い、複雑生体系に対する全原子第一原理分子動力学が可能であることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
バルク水領域に挟まれた脂質2重層中のイオンチャネルという複雑な系の複数のスナップショット構造(異なったイオンの状態)に対してセルフコンシステント第一原理計算が可能となったことは大きな成果の一つである。環境の効果を正確に取り入れた第一原理計算の結果を再現する古典力場の作成という課題に対する重要なデータが多く得られた。 さらに、オーダーN法を用いた大規模第一原理分子動力学が高効率、高精度で行えることを示した。オーダーN法第一原理分子動力学の例は非常に限られている。特に、オーダーN法の導入によって第一原理分子動力学の精度が保たれるのかどうかに対して詳細に調べられている例はほとんど無い。今回導入された手法によって、精度の高いオーダーN法第一原理分子動力学の応用例が今後急激に増加することが期待される。力場の作成に関しては、当初の予定よりも遅れているが、その分当初は予定されていなかったオーダーN法第一原理分子動力学の開発に大きな進展があったので、全体としては、十分な達成度と言える。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に研究を進めるべき課題として、2つの課題が考えられる。一つは、当初予定していた第一原理計算の結果を再現する力場の作成という課題である。初年度の調査で、これには最近進展が著しい情報科学と計算材料科学の融合手法を用いるべきである、という結論に至った。この課題に挑戦するのが第一の課題である。もう一つは、初年度に大きな進展のあったオーダーN法第一原理分子動力学を様々な複雑系に適用することである。特に、多数の水分子からなる水溶媒中における生体分子やイオンの第一原理分子動力学を実現し、古典分子動力学の結果と比較することを考えている。 二つの課題はどちらも興味深く、最初は同時進行で進めるが、得られた結果によって、どちらかの課題に集中する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、初年度は主に計算機使用料として用いる予定であった。しかし、別に申請していた大型計算機使用に対する課題が通ったために、多くの計算機時間を得ることができた。さらに、研究体制の一部変更に伴い、研究計画の順番を変更した。このため、当初予定していた計算機使用料や旅費が初年度は必要なくなり、これを2年目の課題実行に集中して使うことにした。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度の使用計画としては、当初予定していた研究実施体制に変動があったので、研究補助を行う人を一定期間雇用し、その費用に用いる。また、研究課題実行のための旅費に用いる。
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