研究課題/領域番号 |
26610121
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小林 淳 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (50579753)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 量子エレクトロニクス / 精密分光実験 / 光コム |
研究実績の概要 |
2005年のノーベル物理学賞に見られるように、モードロックパルスレーザーを用いた光コムの発明は、中性原子やイオンを用いた超峡線幅分光技術の発展とあいまって、精密分光実験の高精度化を劇的に促進した。私の研究の目的は、高安定な光共振器のFree Spectral Range(FSR)を高精度に測定することによって、マイクロ波と光周波数をリンクさせる『光共振器型の光コム』という新しい方式の光コムを実現することである。平成26年度までの研究において、FSRの高精度測定によって分子の振動準位間のエネルギー差(2.2THz)の周波数を9桁の精度で評価することに成功しており、原理的な動作は保証できている。ただし、ここで評価したのは2本の光周波数の周波数差であり、光周波数の絶対値ではなかった。そこで平成27年度は光周波数の絶対値を評価することを目標にして、研究を進めてきた。 ただし、平成26年度の8月において、私は東京大学の研究室から京都大学の研究室へ異動したため、精密分光のターゲットをKRb分子からYb原子へと変更した。Yb原子には光格子時計として用いられている1S0-3P0遷移があり、極めて峡線幅な分光が可能である。平成27年度の前半は、既存の装置を用いて1S0-3P0遷移を精度良く観測することを目指して実験を行った。この装置では、光格子中の原子の蛍光をNAの大きな対物レンズを用いてイメージングを行うため、高い集光効率と高い解像度が得られ、原子1つ1つを分離して観測することにも成功した。しかし、この装置は1S0-3P0遷移の精密分光実験には向いておらず、十分な分光精度が得られなかった。そのため平成27年度の後半からはより高精度な分光を可能とする、新たな装置の設計・開発をはじめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の研究期間の途中において、私が東京大学工学系研究科井上研究室から、京都大学理学研究科量子光学研究室へ異動となったため、精密分光の対象を極低温のKRb分子から極低温のYb原子へと変更することとなった。Yb原子は光格子時計の研究にも用いられているように極めて高精度な分光実験が行われているため、この変更によって研究の進捗への影響は小さいと考えていた。そこで異動後は量子光学研究室にすでにあるYb原子の装置を用いて精密分光を行っていたが、この装置では十分な分光精度が得られないことが分かった。そのため、より高精度な分光実験が行える装置を新たに作成することとなったため、研究はやや遅れることとなった。平成27年度中に装置の設計は終了し、装置の作成を開始している。
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今後の研究の推進方策 |
Yb原子の1S0-3P0遷移の高精度な分光には、魔法波長と呼ばれる1S0状態と3P0状態に同じ大きさのライトシフトを与える波長(759nm)を用いた光格子が必要となる。既存の装置では532nmや1064nmの波長の光格子を用いているが、これらの波長の光格子中で分光を行ったところ、ライトシフトの大きさに差があるために、線幅の広いスペクトルしか観測できなかった。また、今の装置で新たに759nmの光格子を入射することは装置の配置の関係から困難であった。そこで今後は、759nmの光格子が使用可能となる別の実験装置を新たに作成することにした。これまでに装置に設計は終了し、作成段階に入っている。 平成28年度中に新たな装置を用いたYb原子の1S0-3P0遷移の狭線幅分光を実現し、その絶対周波数を『光共振器型の光コム』によって評価することを目標とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
私が平成26年8月に東京大学から京都大学へ異動となったことに伴い、精密分光実験を行う対象をKRb分子からYb原子へと変更した。そのため平成27年度に行うことを予定していた精密分光実験の時期が遅くなり、平成27年度から平成28年度へ変更になった。この精密分光に必要な光学部品等を購入する時期も平成28年度へ延期となった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度はYb原子の1S0-3P0遷移の精密分光実験を行う。 そのために必要な電子回路部品や光学部品等を購入する。
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