研究課題/領域番号 |
26610123
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
岸本 哲夫 電気通信大学, 情報理工学(系)研究科, 准教授 (70420239)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ボース・アインシュタイン凝縮 / 量子エレクトロニクス / 極低温量子ダイナミクス |
研究実績の概要 |
量子気体中における回折限界を超えた局所操作法の開発を行うには、まずは3次元量子気体中の任意の空間位置のみの状態操作を行える手法の確立が不可欠である。ただ、量子気体外部から操作用のレーザー光を絞り込むと、通常は入射軸方向に貫く形で原子がその入射光を感じてしまう。非共鳴光を用いても、原子の感じるポテンシャルは光双極子トラップの際に生じるような光シフトを感じて歪められてしまう。そのため、交差光を用意して交点を利用して3次元局所操作を試みても、各入射光に沿ったポテンシャルの歪みの痕跡を残さざるを得ない。そこで本研究では初めに、光シフト光を入射しても、原子がトラップされているときの内部状態(基底状態)はその入射光を一切感じず(光シフトせず)、励起状態のみがその入射光を感じる(光シフトする)条件を見出すことを目指した。この条件を用いると、トラップされた原子の内部状態は交差光による光シフトを生じず、そこへ新たに外場を照射して交点のみで基底状態と励起状態とを相互作用させることで、真に任意の空間位置のみでの状態操作を行えると考えられる。まず、このような条件の光は、Rb原子のD1線とD2線の間に存在すると見積もった。そこで、円偏光マイクロ波(6.8GHz)を放射可能なヘリカルアンテナを作成し、Rbガスセル(室温)に印可した磁場(量子化軸)に沿う方向で入射した。その際、Rb-D2線のF=2→F’=3に共鳴な光も同軸方向に入射させ、吸収信号を観測することで、基底状態(F=2)の原子数変化を介してマイクロ波照射によるF=1原子の変化を調べた。また、D1線(795nm)からD2線(780nm)まで掃引可能な数百mW光源を構築し、各波長での最適な電流・温度条件を割り出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3次元量子気体中の任意の空間位置のみの状態操作を行える手法の確立に向けて、まずは今回提案している方法の妥当性を検証する上で、提案する光シフト光の特殊波長(マジック波長)の存在を確認する必要がある。そのために、室温原子集団を用いて検証可能な簡便な測定法を新しく提案し、実験に向けた各部位の事前準備を行っている段階である。ここで励起状態(5S1/2、F=2、mF=2)に生じさせるシュタルクシフト量は100kHz程度を見積もっており、基底状態(5S1/2、F=1、 mF=1)と励起状態(5S1/2、F=2、mF=2)の間のシュタルクシフト差はマイクロ波源およびマイクロ波遷移線幅と比較して十分に測定可能なパラメータ領域にあるため、実現すれば簡便ながらもシンプルで画期的な実験手法と言える。これらの点から、新しい実験技術を開拓しつつ、必要となる要素技術を構築した段階となっており、おおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
実験の面では、ピンホールを用いてD1線(795nm)からD2線(780nm)まで掃引可能な数百mWの光シフト光とプローブ光(Rb-D2: F=2→F’=3)の焦点を重ね合わせて、装置に組み込む予定である。その際、各レーザー光とマイクロ波の偏光条件が重要になるため、これらに留意しながら、マジック波長の存在を実証する。その後、実際の冷却原子集団を用いた装置へ実装し、量子気体の3次元局所操作を行い、実験条件を変えながら、回折限界を超えた局所操作を目指すべく、推進する計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
H26年度は光シフト用光源(仕様:掃引波長=780nm-795nm、ファイバー後出力=200~300mW)として、狭線幅外部共振器型レーザー光源とテーパー増幅器の組み合わせを計画段階で予定していたものの、種光の発振波長域内で780-787.5nmまでしかテーパー増幅器に必要な出力が得られず、この組み合わせによる光源準備の計画を変更する必要が生じた。最終的なマジック波長近傍での実験では、狭線幅の必要性が必ずしもないため、LD単体で必要な出力があり、所望の波長掃引域で発振するLDをいくつか試して探し出し、所望の各波長での発振条件(電流、温度など)を表として作成する手法をとる計画とした。この変更に伴い、予算の繰り越しが生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
H27年度は、繰り越し分を合わせて、2軸位置操作を可能にする音響光学素子を駆動するためのラジオ波駆動用電子部品(400千円)、マイクロ波電子部品(400千円)、既存の装置へ新しく組み込むための光学部品(1500千円)の購入に充てる。
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