87Rb原子のボース凝縮体(BEC)を二次元アンチドット型光格子というエネルギー極小が多重連結した空間内へ誘導し、H26年度は光格子系全体を正弦波的に数回振動、H27年度はBECを一定速度でドラッグさせ、その直後の運動量分布の観測を行った。光格子系を振動させた場合は、ブロッホバンド端の半分の速度に対応する0.5vBを超えた領域で、格子の周期性に起因する大きな波数の鋭いピークが現れること、一方、ドットを高くすると、より小さい速度で低波数の励起がまず起こり、各々、動的不安定性とエネルギー不安定性(ランダウ不安定性)という2つの機構により超流動性が崩壊していることを示唆する結果を得た。 H27年度は、静止したアンチドット格子の中をより長い時間、ほぼ等速度でBECをドラッグさせる実験を行った。その結果、0.5vBを超えた領域で急激にBECの崩壊が進む様子や、ドットが高い場合に観測された低波数の励起が時間発展していく様子など、より詳細な情報が得ることができた。これらは動的不安定性とphonon-likeな励起により系全体のエネルギーを低下するランダウ不安定性の特徴と定性的に合致しており、不安定性が誘起される様子が、本研究によって初めて直接的に観測できたのではないかと考えている。 また、比較的高いアンチドットで光格子系を振動した場合、方向によっては量子渦に似た穴が原子気体中に観測された。エネルギー極小に沿う方向の振動では穴は生成されず、ドットを迂回しなければならないことが重要な要因となっていると思われる。BECをドラッグする場合では穴は観測されず、振動という手法に特有の現象とも考えられるが、現時点では、詳細はよくわかっていない。今後の研究によっては、量子渦と結びつく可能性があると考えている。
|