研究実績の概要 |
フェリチンは細胞内に存在する球状蛋白質で、内部に8ナノメートルの空洞を持つ。鉄イオンはここにIII価の結晶として貯蔵されているが、ヘムの構成要素として用いられる場合などはII価に還元され、たんぱく質の殻にあるチャンネルを通ってフェリチン外に放出される。先行研究(Cespedes & Ueno, Bioelectromagnetics, 2009)でこの鉄イオン出入りの速さにメガヘルツ帯の磁場が影響するという報告があった。一方我々は以前より50ヘルツ磁場が細胞の一酸化窒素産生に影響することを報告してきた(Miyata et al., J. Phys. Con. Ser., 2013)。鉄イオン放出にも一酸化窒素号税にも酸化還元反応が関与することから、われわれはフェリチンにおける鉄イオンに50ヘルツ磁場が影響するかどうかに興味を持った。 ファンクションジェネレータで発生させ、バイポーラ電源で増幅した50ヘルツ交流電流をヘルムホルツコイルに流し、50ヘルツ、または1キロヘルツ(いずれも3.2ミリテスラ)の磁場を発生させ、フェリチン溶液を5時間曝露した。曝露後にII価鉄指示薬フェロジンを加え、吸光度上昇で遊離II価鉄イオンを測定した。非曝露試料についても同様に測定した。先行研究を参考にフェリチンからの鉄イオン放出過程が鉄イオン結晶から蛋白質部分への鉄イオン移行、蛋白質部分からフェリチン外へのII価鉄イオン遊離、II価鉄イオンと指示薬フェロジンとの反応による吸光度上昇、という3ステップからなる、と仮定し、各過程に対する速度論的方程式を解いた。こうして得られた理論式を用いて実験曲線をフィッティングし、各ステップでの速度定数を見積もった。その結果唯一50ヘルツにおいて鉄結晶から蛋白質部分へのII価鉄イオン移行の速度定数が磁場曝露により数%有意に上昇することを突き止めた。
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