低周波(50ヘルツ)磁場によりフェリチンからの鉄遊離が変化するかどうかを分光法を用いて研究した。 フェリチンは細胞内において遊離Ⅱ価鉄イオンをⅢ価の形で微結晶として貯蔵する。過去の疫学研究により、低周波磁場が小児白血病のリスクを上昇させることが示唆されている。一方発がんと酸化ストレス上昇の関連が疑われているが、鉄イオンは酸化ストレスを上昇させる因子として知られている。そこで低周波磁場がフェリチンから鉄イオンを遊離させる結果細胞内酸化ストレスが上昇するのではないかと考え、上記の実験を行った。フェリチン水溶液を50ヘルツ、3ミリテスラの低周波磁場に5時間曝露した場合としなかった場合でフェリチン外のⅡ価鉄イオン濃度が変化するかどうかを、Ⅱ価鉄の指示薬フェロジンの吸光度増加を指標として調べた。 フェロジンの発色は非常に長い時間変化(>48時間)をしめし、GNU-plotを用いたフィッティング解析の結果単一の指数関数では表せないことが分かった。先行研究を参考に、2段階の鉄イオン遊離モデル(フェリチン内微結晶からの鉄イオン遊離と遊離鉄イオンのフェリチンからの解離)を用いてフェロジン発色曲線をフィッティングした。その結果、微結晶からの鉄イオン遊離に対しては磁場効果は見られず、フェリチンからの鉄イオン解離プロセスの速度定数と遊離Ⅱ価鉄イオン濃度がわずかに増加することがわかった。なお、得られた速度定数等の値は磁場なしで先行研究において得られていた値とまずまずの一致を見た。 フェリチンからの鉄イオン遊離機構そのものはいまだに決着を見ておらず、本研究の結果は、鉄イオン遊離の定量法、結果の解析法において工夫を行うことによって得られたものである。その後の追加実験により、解析に用いたキネティックスの仮定を再検討することが望ましいと分かった。今後その方向で研究を進める予定である。
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