研究課題/領域番号 |
26610131
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山本 量一 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10263401)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | シミュレーション / 細胞分裂 / 腫瘍 / 生体組織 / アクティブマター |
研究実績の概要 |
再生医療の様な最先端の医学・生物学が対象とする複雑な問題に対して、物理学的な視点から矛盾のないモデルを構築し、計算機シミュレーションで定量的に正しい予測が得られる日は来るだろうか?現状の計算機とモデリング技術では全く歯が立たないが、そう遠くない未来にこれを実現できるよう、世界に先駆けて計算科学のフロンティアを前進させることには大きな意義がある。我々は、ソフトマターに対して成功を納めたモデリング手法を発展させ、生体細胞や生体組織に対して有効なモデリング手法を構築し、現実的な具体例への適用を目指している。生体組織では細胞分裂や細胞遊走などにより能動的に内部応力が発生し、自発的な組織の成長・修復・変形が長い時間スケールで起こる。また、細胞分裂や細胞遊走の起こる確率はマクロな外力や変形に強く依存する。このようなミクロとマクロの能動的な結合を計算科学によって理解し、制御しようとする試みはほとんど例がなく、急速な発展が見込まれる研究領域であるにもかかわらずほとんど未開拓である。我々はまだ先駆的な試みを開始したところであるが、最終的には細胞分裂より長い時間スケールで起こる生体組織の成長や変形という問題に挑戦する計画である。その場合は細胞分裂という通常の物質にはないアクティブなプロセスのモデリングが鍵となるが、最近英国のNewmanらが提案したScEMというユニークな粒子モデルが有効であると考えて、試験的な計算を開始した。この他にも細胞や生体組織の自発的な運動を考慮したモデルの構築と応用も並行して進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度は、モデリングに主に取り組んだ。応募者等がこれまでに開発した流体力学に基づくソフトマターのための粗視化シミュレーション法を元に、生体材料・生体組織のモデリングを可能とすべく新しい計算モデルを構築した。生体材料・生体組織への拡張には、ソフトマターで重要であったミクロとマクロの受動的な結合に加え、両者の能動的(アクティブ)な結合をも取り入れる必要があり難易度は高い。平成26年度は、初歩的なモデル構築に時間を費やした。具体的には、Newmanらが提案したScEMというユニークな粒子モデルを用いて、哺乳類上皮細胞を構成する細胞のターンオーバー(細胞分裂で生まれてから死んで皮膚組織から剥がれるまでの過程)を考慮したモデル系のシミュレーションを実現している。これらのことから、研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は、初歩的なモデル構築の検討を行った。いくつかの有力なモデリング手法が見つかり、平成27年度は引き続いてモデリングの検討を行うとともに、順次大規模なシミュレーションを実施し、得られた結果の解析を行う。個別の計画は以下の通りである。 モデリングとプログラム開発:引き続き山本が中心となってモデリングとプログラム開発を行う。実験グループより提供される現実的なデータとの比較を通して、モデリング方法の妥当性を定量的に検証する。 シミュレーション・データ解析:得られたシミュレーションデータを統計力学的に解析する。さらに、大規模データの可視化を実現し、実験研究者とのコミュニケーションを促進させると同時に、一般国民に向けた研究成果のアウトリーチにも使用する。 予想される問題点とその解決案:開発したモデルを用いたシミュレーションの計算量が予想より大きくなる可能性は、現時点では否定できない。このような理由により計算速度が十分でない場合は、使用する計算機の能力に頼らざるを得ない、そのためには、1)並列化による高速化(プログラミング)、2)価格批性能が高いコンピュータの導入(CPU→グラフィックユニットGPUへの切り替え)などによって問題解決をはかる。
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