長距離配向秩序を持つ液晶相では、分子の協同的な回転運動を電場印加や光照射によって誘起することができる。一方、液晶ディスプレイ用セルや光学セル内に封じ込められた液晶分子は、容器の壁面上では分子の配向方向が束縛されていて、アンカリングと呼ばれるこの界面分子束縛は、液晶ディスプレイの機能にとって本質的に重要かつ不可欠な要素となっている。しかしながら、この界面束縛は同時に界面上での分子回転運動を禁止するために、バックフロー(背流)と呼ばれる並進運動が励起され、ディズプレイの機能阻害になる。本研究構想では、この現象を能動的に活用し、分子スケールの回転―並進運動変換(分子ラック&ピニオンギア)の原理を研究し、自在に制御することを目的とする。 本提案における分子ラック&ピニオンの原理では、液晶秩序内に人為的に導入した界面の性質を制御することにより、液晶秩序のミクロな協同的分子回転運動と並進運動の動的結合を物理的に理解・利用して、分子回転制御と分子輸送との間の関係を制御する。一方、Slippy高速応答界面の原理は、界面の動的状態を制御し、完全フリーに回転できる界面とすることで、前述の分子ラック&ピニオンの原理の極限状態として実現される。 我々は、(1)高分子界面膜/液晶に対する不純物/液晶分子の3つの組み合わせを最適化することで、温度による界面状態の変化、すなわち配向に対する回転束縛-自由回転を自在に制御することに成功した。(2)高分子界面膜上にAzo基を有する分子を共結合することにより、UV光励起による回転束縛-自由回転の界面状態スッチングに成功した。(3)上記2つのモデル的な界面を用いて、レオロジー測定、および、流れを可視化しながら、流動場下での液晶配向変化を直接観察することで、ラック&ピニオン効果についての基礎的な知見を得た。
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