平成28年度は、磁気測定が終了した神奈川県丹沢山地中川で採取したジルコン試料に対して、電子顕微鏡・実体顕微鏡を用いた組織観察・包有物観察を行った。丹沢山地中川で採取したジルコン試料に対しては組織観察・包有物観察において磁鉄鉱、磁硫鉄鉱等の磁性鉱物が直接確認され、磁気測定の結果を裏付けるデータを得ることができた。また、中華人民共和国上海市の長江河口で採取したジルコン試料及びアメリカ合衆国ルイジアナ州のミシシッピ川河口で採取したジルコン試料に対して前年度までに行った磁気測定データを詳細解析し、その結果から天然のジルコン結晶中には磁鉄鉱、磁硫鉄鉱がしばしば含まれており、古地磁気強度測定に適していると期待される磁鉄鉱を含みかつ自然残留磁化強度/等温残留磁化強度の比が小さい試料が大規模河川の川砂中に一定数含まれていることを示した。上記の結果について国内外の学術会議で発表・議論を行った。 本研究では、川砂ジルコンを用いた古地磁気強度測定新手法の確立を目標と設定していた。研究期間全体を通じた成果としては、磁気測定用ジルコンの採取・準備手法の確立、微小・微弱なジルコン単結晶の各種磁気測定手法(残留磁化測定手法、低温消磁・磁化測定手法、低温磁気測定手法、磁気ヒステリシス測定手法、熱残留磁化着磁・磁化測定手法)の確立、磁気パラメータの組み合わせによる古地磁気測定試料選別基準の提案、選別基準を満たす試料による予察的古地磁気強度実験の実施があげられる。本研究により、ジルコン単結晶を用いた古地磁気測定研究の基礎構築がなされ、川砂ジルコンを用いた古地磁気強度研究の実現可能性が示された。また、単結晶試料を用いた古地磁気強度研究は世界的に発展途上であるが、本研究の単結晶磁気測定手法を用いた応用研究が国内において複数開始された点も大きな成果である。
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