2012年~2013年に行われた黒潮親潮混合水域における高気圧性中規模渦のArgoフロートおよび船舶を用いた集中観測データ、および高解像度海洋シミュレーションの出力から、中規模渦の時間発展や渦からの距離と高鉛直波数構造の発生頻度およびサブメソスケール現象の活発度との関係について事例的・統計的に記述した。 2000年~2012年の黒潮親潮およびその続流の周辺海域に展開されたArgoフロートと衛星海面高度のデータの解析から、渦度場・歪場に対する高鉛直波数構造の分布を調べ、検出のための閾値に対する感度や特性、海域依存性を調べた。その過程で、サブメソスケール擾乱の空間分布とその背景場依存性について、擾乱の3次元カスケード理論との比較を詳細に行い、Klein et al. (1998)が理論化した3次元カスケードが、実海域で生じていることを支持する結果を得た。 2016年に行った黒潮続流北の高気圧性中規模渦の船舶による高密度観測のデータを、渦内外の高鉛直波数構造の特性と発達メカニズムに着目して解析し、渦縁の歪場と渦の中心により近い渦度場の両方で捉えられたサブメソスケールの低温/低塩水のフィラメント構造を起源として、水平流速の鉛直シアによる高波数化が歪場と渦度場の両方で起こっていることを示した。すなわち、高鉛直波数構造が、サブメソスケール現象の起こる歪場だけでなく、渦内部に発達後の痕跡が入り込むことで渦度場でも形成されうることを示した。さらに、発達直後と発達から時間が経過した高鉛直波数構造を、貫入構造の鋭さで区別できることを示した。 鉛直プロファイルから検出可能な高鉛直波数構造とサブメソスケール擾乱との関係を、理論的な裏づけとともに示した本研究の成果は、Argoフロートデータから、全球的なサブメソスケール擾乱の時空間分布に関する情報を抽出するための、重要な基礎となると期待される。
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